どうすればいい? 透析後の疲労感
人工透析まめ知識、 今回は「透析後の疲労感」に関する話題です。
透析を受けたあと、「なんとなくだるい」「すぐ横になりたくなる」「何もする気が起きない」といった疲れを感じる方は少なくないのではないでしょうか。
実はこれは、特別なことではなく、多くの透析患者さんに共通するお悩みのひとつです。
今回は、「透析後の疲労感」について、その原因や対策を一緒に見ていきましょう。
1.なぜ疲れる? 透析後の体の中で起きていること
「透析が終わった直後から、体が鉛のように重たい……」「家に帰ると、何もする気にならない……」
透析後の疲れは、多くの方が経験するものです。
なぜ、透析後にはこんなにも疲れてしまうのでしょうか?
実は、透析中は体の中でかなり”劇的な変化”が起きているのです。
● 急な「水分の移動」と血圧の変化
透析では、余分な水分を一気に体から取り除くことになります。
とくに、体重が大きく増えていると(=透析の間に多くの水分をとっていると)、取り除く水分量(除水量)も増えます。
その結果、
・ 血液の量が急に減って血圧が下がる
・ 筋肉や脳などの臓器に十分な血液が届かなくなる
・ 「フラフラする」「めまいがする」「だるくて動けない」といった症状が出やすくなります
こうした状態は、ちょうど脱水状態や貧血に近い感覚といえます。
● 電解質バランスの変化
透析中は、血液中のカリウム、ナトリウム、カルシウムといった電解質の濃度が一気に変化します。
これに体がうまく適応できないと、筋肉や神経に違和感が出たり、だるさや頭痛、吐き気などの不調が現れることがあります。
特に長時間かけてためた老廃物や水分を短時間で除去すると、体への負担が大きくなります。
● 栄養やエネルギーも失われる
透析では、血液をきれいにすると同時に、必要な栄養素も多少失われてしまいます。
・ たんぱく質の一部がダイアライザー(透析器)を通して失われる
・ ビタミン類や微量ミネラルも一緒に流れ出る
そのため、透析後には体が「補給必要状態」に入るのですが、そこに十分な栄養やエネルギーがなければ、疲労が長引いてしまいます。
● 体への“ストレス反応”もある
透析は、体にとって「命をつなぐ大事な治療」である一方で、「身体的ストレス」でもあります。
・ ベッドで何時間も同じ姿勢でいること
・ 穿刺(せんし=針を刺すこと)の緊張や痛み
・ 隣の患者さんの動きや音、環境の変化 など
こうした小さなストレスの積み重ねも、疲労感として感じる一因です。
2.疲労感の種類は人それぞれ 〜タイプ別に見る原因と対策〜
透析後の疲れといっても、感じ方やタイミングには人それぞれ違いがあります。
ここでは、代表的な4つのタイプと、それぞれの原因・対策について詳しく見ていきましょう。
【タイプ1】透析直後に「ぐったりして動けない」
考えられる原因:
・ 透析中に急激に水分を除去した(除水量が多い)
・ 透析中に血圧が大きく下がった
・ 血液の電解質バランス(特にナトリウムやカリウム)が急に変化した
対策:
・ 理想体重(ドライウェイト)を見直す
・ 水分制限や塩分制限を見直し、透析間の体重増加を抑える
・ 除水のスピードを調整したり、透析時間を延ばすことも検討
・ 血圧が下がりやすい人は、透析前半にベッド上で運動(腎臓リハビリ)をしたり、血圧を下げる薬の調整が有効な場合も
【タイプ2】家に帰ってからじわじわ疲れがくる
考えられる原因:
・ 栄養不足や筋力低下で、体の回復力が弱っている
・ 透析自体の負担がじわじわ蓄積している
対策:
・ 帰宅後は無理に動かず、1時間程度しっかり休むことを習慣に
・ 透析中や直後に軽い栄養補給(たんぱく質や糖質)をとる
・ 栄養士に相談し、自分向けの食事プランを組み直す
・ 体力をつけるため、週に数回、簡単な運動(腎臓リハビリ)を取り入れる
【タイプ3】翌日までだるさが続く
考えられる原因:
・ 透析による慢性的な疲労の蓄積
・ 貧血や栄養不良など、体そのものの「基礎体力」が落ちている
・ 睡眠の質が悪い、夜間に足がつる・尿意で起きるなどで十分な回復ができていない
対策:
・ 定期的な血液検査で貧血や栄養状態をチェックし、必要に応じて薬や栄養補助食品を使用
・ 睡眠環境を整え、眠りの質を改善
・ 「透析の翌日は無理をしない日」と決めて、生活にメリハリをつける
・ 体調がすぐれない日は、透析スタッフに事前に伝えて除水量や透析時間などを調整してもらう
【タイプ4】精神的にも「気力が出ない」「落ち込む」
考えられる原因:
・ 長期的な透析生活へのストレスや不安
・ 疲労そのものが精神状態に影響して、意欲や集中力の低下につながっている
・ うつ症状の初期サインである可能性も
対策:
・ 家族や医療スタッフと日頃から気持ちを共有することが大切
・ 自分なりのリラックス方法(音楽、趣味、日記など)を見つける
・ 定期的に心療内科の受診を検討する
3.まず見直したいのは「除水量」と「血圧」
透析後の疲れの原因としてもっとも多いのが、「急激な除水」と「血圧の低下」です。
透析で一度に多くの水分を抜くと、体に大きな負担がかかります。
また、透析中に血圧が下がると、めまいや吐き気、強い倦怠感が出やすくなります。
対策としては、
・ 普段の体重管理をしっかり行い、透析間の水分のとりすぎを防ぐ
・ 血圧低下が続く場合は、透析時間を延ばす・除水スピードを調整することも検討
・ 食事や運動を通じて、全体的な体力を底上げしていく
これらを私たち医療スタッフと相談しながら決めていくことが大切です。
4.食事と栄養状態にも注目
透析中・透析後の疲れを軽くするためには、「しっかり食べること」も大切です。
透析を受けると、血液中のたんぱく質やビタミン、ミネラルなども一部失われてしまいます。
そのため、体を回復させるには十分な栄養が必要です。
栄養状態が悪いと、疲れやすさが増し、体力も落ちてしまいます。
とくに次のようなポイントに気をつけましょう
・ 食欲が落ちていないか
・ 体重や筋肉量が減っていないか
・ 血液検査で「アルブミン値(たんぱくの指標)」が低くなっていないか
これらは、定期的に行う血液検査(当院では月2回)や、体力測定(当院では半年毎)などで確認することができます。
また、食事内容などで困ったことがあれば、いつでも栄養士さんからのアドバイスも受けることができます。
5.無理せず「自分に合ったペース」を見つけよう
透析後の疲労感は、体からの「ちょっと休ませて!」というサインかもしれません。
透析の日は、「休息日」としてゆっくり過ごすようにするのもひとつの方法です。
また、軽いストレッチや体操を取り入れると、体力維持につながり、疲れにくくなることもあります。
最近は「腎臓リハビリ」といって、透析中の運動プログラムも注目されており、当院でもエルゴメーターやオリジナル動画を使った体操などを行っております。
「今日は疲れたから、横になろう」「明日は少し歩いてみよう」など、自分の体と相談しながら、ムリのない生活リズムを作っていきましょう。
おわりに
透析後の疲れは、誰にでも起こりうるものです。
でも、「仕方ない」とあきらめず、日常の工夫や医療スタッフとの相談で、少しずつ軽くしていくことも可能です。
気になることがあれば、遠慮なくスタッフに声をかけてください。
これからも、よりよい透析ライフを目指していきましょう。