「水をたくさん飲めば腎臓にいい」は本当?
健康情報としてよく耳にするのが、「水をたくさん飲んだほうが体にいい」「腎臓を守るにはこまめな水分補給が大切」というアドバイスです。
実際、テレビやインターネットでも「1日2リットルの水を飲みましょう」といった話を見かけたことがあるかもしれません。
でも、それってすべての人にとって本当に正しいのでしょう?
また、腎臓病の方や、透析を受けている方にとっても、「水をたくさん飲むこと」はよいことなのでしょう?
今回は、この「水をたくさん飲めば腎臓にいいの?」という疑問について、腎臓専門医の視点からお話ししていきます。
1.健康な人にとっての“水分補給”の意味
私たちの体の約60%は水分でできており、体温調節や老廃物の排出など、生きていくうえで水は欠かせません。
特に、腎臓は血液中の余分な水分や老廃物をろ過して、尿として出す働きをしています。
健康な人の場合、適度な水分補給は、尿の量を増やして老廃物や細菌を体の外に出しやすくするため、尿路感染症や尿路結石の予防につながることもあります。
また、暑い日や運動をして汗をかいたときなど、体が水分を欲しているときには、こまめに水をとることがとても大切になります。
というのも、体の水分が「体温を下げてくれる”汗”の原料」になるからです。
そして、この”汗”が熱中症予防※になるのです。
※熱中症と腎臓病については ⇒こちらをクリック
これらの理由から、健康な腎機能を持つ人にとっては、「1日1.5〜2リットル程度の水分摂取」が一般的な目安となります。
ただしここで注意が必要です。
「水をたくさん飲む」は、「必要以上に無理して大量に飲む」こととは意味が違うからです。
2.腎臓が悪い人にとっての「水分」はどうなる?
では、腎臓が悪くなってきた人の場合はどうでしょう??
腎機能が落ちてくると、体の中の余分な水分や塩分をうまく体の外に出すことができなくなってきます。
すると、体に水がたまりやすくなり、「むくみ」や「高血圧」、「息苦しさ(肺に水がたまる)」などの症状が出てきます。
このような状態で「水をたくさん飲んだほうがいい」と信じて、水分を多く取ってしまうと、体(特に心臓)の負担はどんどん増してしまい、
「心不全」になる危険性も出てきます。
つまり、体に水がたまりやすい腎機能が落ちている方は、水分摂取量は健常人よりも少なめの方がよいと言えます。
中でも慢性腎臓病(CKD)の中〜後期の方では、十分注意が必要になってきます。
また、1日の水分摂取量が季節によっても変わってきますので、医師と相談しながら、慎重に調整することが大切です。
自分が適切な量の水分をとっているかを確認する方法の中でも、ご自宅で出来る簡単なものは「体重測定」がオススメです。
毎日、同じ条件(入浴前や起床時など)で体重を測定してみましょう。
体重が数日で大きく(2-3kg程度)増えているようなら、知らず知らずに水分摂取が増えて、体に余分な水分が溜まってきている可能性があります。
一方、体重が数日で大きく(2-3kg程度)減っているようなら、体が脱水気味である可能性があります。
3.透析を受けている人の場合:水分制限が必要な理由
人工透析を受けている方にとって、「水分制限」は欠かせない大切なテーマです。
透析をしていない日は、体にたまった水分を取り除けない(除水できない)ため、飲んだ分だけ体に水がたまってしまいます。
たとえば、透析の間隔が中2日空く週末などに水を多く飲みすぎると、週明けの透析までに体重がたくさん増えてしまい、体(特に心臓)に大きな負担がかかります。
さらに、たくさん溜まった水分を透析のときに急激に抜こうとすると、血圧が下がったり、足がつったり、強い疲労感が出たりすることもあります。
透析を受けている方は、自分の「1日の水分制限量」を透析間の体重増加量を見ながら調整し、必要に応じて医師や看護師と相談していくことが、体を守るうえでとても重要となります。
4.「水を飲んで腎臓をきれいに」は誤解かも?
「水をたくさん飲めば、腎臓がきれいになる」とよく言われますが、実はこの考え方には誤解があります。
腎臓が老廃物をろ過して尿を作るのは、確かに水分が必要な作業ですが、「水をたくさん飲めば飲むほど腎臓が元気になる」というわけではありません。
むしろ、腎臓が悪くなってきた状態でたくさんの水を取ると、体に大きな負担をかけてしまうこともあるのです。
ちなみに「水をたくさん飲めば飲むほど腎臓が元気になる」のは、体が脱水状態で腎臓が急激に悪くなる「急性腎障害」のときに限られます。
慢性腎臓病の方において、腎機能が落ちていく原因は、主に血圧管理や血糖の管理、そしてたんぱく尿などが大きく影響しており、
水の摂取量だけで腎臓の進行が止まるわけではありません。
5.まとめ:水分は「自分に合った量」を意識しよう
「水をたくさん飲む=腎臓によい」というのは、健康な人にとってはある程度正しい面もありますが、腎機能が低下している人や透析をしている人には当てはまりません。
大切なのは、「自分の体の状態に合った水分のとり方」を知ることです。
大まかにいうと:
<健康な人> のどが渇く前にこまめに水分補給して、暑いときはしっかり汗がでるようにする(熱中症予防)
<腎機能が落ちてきた人> 健康な人よりはやや少なめが望ましいが、季節によっても違うので医師の指示に合わせて水分量を調整。
毎日体重測定をして、自分の体内にある水分量を確認。
<透析を受けている人> 透析間の体重増加量を確認して、適切な量を決めていく。
医師やスタッフと相談して、制限内の水分量に留める。
無理に「水をたくさん飲まなきゃ!」と思い込まず、自分の体に必要な量を意識することが、腎臓と体を守る第一歩です。
お困りのことがあれば、当院へご相談にいらしてください。