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第10回:コロナ感染の新たなリスク ~コロナ後遺症(ロングCovid)と腎臓~

[2021.09.06]

日本の新型コロナウイルス感染累計者数が150万人を超えましたが、感染後の後遺症が長く続くことが知られるようになり、「ロングCOVID」と呼ばれています。

 

ちなみにWHOによれば、感染者の10%程度はその後遺症が続くとのことです。

 

よくある症状としては、息切れ・頭痛・睡眠障害・抑うつ・倦怠感などが言われていますが、最近、「腎臓機能の後遺症も無視できない」という研究結果が発表されました。

 

この研究結果は、9月1日米国腎臓学会誌に掲載され、少なからず衝撃的であったせいか、ニューヨーク・タイムズブルームバーグといった著名な海外メディアでも報道されました。(日本ではあまり知られてませんが…)

 

腎臓の後遺症については、実は今年の1月に中国からの研究Lancet 2021; 397: 220–232)でも発表されていましたが、副次的な結果として紹介されており、あまり認知されてませんでした。

 

ちなみに、その中国からの研究結果にはこんなことが書いてあります。

 

新型コロナウイルス感染で入院した1378人中、479人(約35%)が、感染前と比べて感染半年後に腎機能の悪化を認めた。更に、もともと腎機能が正常でかつ、入院中も腎機能が悪くならなかった人822人のうち、107人(約13%)が半年後に腎機能の低下を認めた。」

 

これだけでも、私たち腎臓内科医にとっては、十分注目に値する内容です。

 

そして、今回のご紹介する研究結果が更に一般メディアに注目された理由には、

腎機能だけに焦点を当てた研究であること、②非常に大規模な人数を対象としていること、③入院するほど重篤ではなかった人まで含めていること

があるようです。

 

では、この研究結果をかみ砕いて解説してみましょう。

 

この研究は、米国退役軍人保健局に登録されている人を対象とし、2020年3月1日から2021年3月15日までの間で、新型コロナウイルス感染後30日目以降に腎臓の機能がどう変化したかを、感染しなかった人と比較しています。

 

対象者は、既感染者が約9万人(年齢:53 -73歳で平均65.5歳)、未感染者が約163万人(年齢:57-74歳で平均68.7歳)でした。

JASN September 2021, ASN.2021060734より引用・改編

表は、感染後30日目(急性期が過ぎた後)からスタートして、6か月後に何らかの腎臓機能障害を起こす危険性が、感染しなかった人と比べてどれくらい高いのかを示しています。

 

これをみると、入院した人や集中治療を受けるほど重症だった人はもちろんのこと、入院しなかった人でも、腎機能が悪化する危険性が高まるという結果だったのです。

 

JASN September 2021, ASN.2021060734より引用・改編

次に私たちが普段の診療でも利用している腎臓の機能をあらわす値、”糸球体ろ過量:eGFR(ml/分/1.73m2)”という数値で感染後の経過を見てみると、1年後のeGFRの変化は、右グラフのように予想されます。

 

この結果からわかることは、「重症であればあるほど入院しなかった人<入院した人<集中治療室で治療した人)、何らかの腎機能障害をきたす危険性が高まる」ということです。

 

確かに日本でも重症化した場合には、血液透析が必要になるほどの腎障害を起こす場合があることは良く知られています。

 

そして、重症化すれば、(腎臓機能も含めて)何らかの後遺症をわずらう危険性も高まることは、想定内とも言えます。

 

しかし、この研究で最も衝撃的な結果は、先にも書いたのと同じく、「入院する必要がない程度の人でも、半年~1年後に腎機能障害を起こす危険性が高まってしまう」ということです。

 

急性期の腎障害のメカニズムは、微小血栓などわかってきている部分もある一方で、急性期後に徐々に腎機能が低下するメカニズムはまだはっきりとしていません。

 

ですから、どのような人が後々になって腎機能障害を起こすのか予想がつかないのです。

 

但し、新型コロナウイルスが世界中で流行していることから、「その国の経済事情や人口分布・人種など、様々な要因を加味する必要もある」という注意点がこの論文には書かれています。

 

そして、この論文には以下のことがメッセージとして述べられています。

 

① 軽症であってもコロナ感染後は、腎機能の悪化を起こす危険性が高まるのは明らかである

② 感染者の大多数が軽症であることからも、この事実は今後の医療体制において大きく影響するかもしれない

③ 重症化の程度にあわせて、感染後の腎障害の程度も異なる

 

今回の研究だけでは、全ての事実はまだ語れません。

 

今回の研究は米国の退役軍人を対象にしているため、その9割以上が男性です。

 

また、半分以上が肥満だったり、3割以上が糖尿病を持っていたり、わりと高齢者が多いことなど、日本の事情にあてはめられない部分も多々あります。

 

また、観察期間がアルファ株が流行していた時期が中心であり、現在流行しているデルタ株感染の場合には、どう違うのかも考える必要がありそうです。

 

しかし、日本での累計感染者が9月初旬の段階で153万人、そのうち入院を要した人は約20万人です。

 

ということは、残りの約130万人の入院しなかった人でも「治ったからもう大丈夫」とは言えないかもしれないことは、考えておく必要がありそうです。

 

中国の研究結果を踏まえて、ざっくりと「約10%の人で腎機能が悪化する」と想定すると、今後13-15万人の人が腎機能障害をきたす危険性があるということになります。

 

腎臓病について問題なのは、悪くなっても症状が出にくく、末期になってから判明することが多いこと、そして、慢性的に悪くなるとなかなか元に戻らない臓器であることです。

 

ワクチン接種を含めて”感染予防策”に注目が集まってしまいますが、”感染の後遺症”を私たち医療従事者がどうやって発見し、フォローしていくのかが、今後問われることになりそうですね。

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