第14回:コロナワクチンと心筋炎 ~子供のワクチン接種は大丈夫?~
子供のワクチン接種に関しては、第12回のコラムでもお伝えした通り、ファイザー社が5-11歳におけるコロナワクチン接種の有効性と安全性を先月発表しました。
さらに10月7日、ファイザー社とモデルナ社が5-11歳のワクチン接種をFDAに要請したとのことです。
また、10月6日には著明な医学雑誌に、「ファイザー製ワクチン接種後の心筋炎発症についての論文」が2つ掲載されたことで、「子供のワクチン接種をどう考えるか」が、科学者でも分かれているようです。
そして現在、米国を中心とした諸外国では子供のワクチン接種の是非についての議論が活発になっています。
ちなみに、スウェーデンやデンマーク、ノルウェーでは、心筋炎の副反応を考慮して若年者へのモデルナ製ワクチン接種を中止し、ファイザー製ワクチンを1回接種に限定しているようです。
ワクチンがコロナ感染予防と重症化予防に一定の効果があることは科学的にも証明され、接種することが望ましいのはほぼ間違いないでしょう。
しかし、重症化することがほとんどない子供や若年者において、ワクチン接種をすべきかどうかは科学者でもかなり意見が分かれているようです。
そこで、「先述した二つの論文結果」と、「ワクチンが12歳まで適応拡大された経緯」、「現在の科学者たちの考え」をご紹介したいと思います。
心筋炎についての2つの論文結果とは?
ちなみにどちらの論文もイスラエルからの報告です。
まず1つ目の論文の結果です。
この論文では、イスラエル最大の保健データベースを解析したものです。
ファイザー製ワクチンを接種した250万人(16歳以上)のうち、心筋炎を発症したのは、54例(男性51例、女性3例)だったそうです(0.002%)。
全体で見ると10万人あたり2.1人程度の発症率ですが、16歳から29歳の男性に限ると、その発症率が10万人あたり10.7人と特に高かったそうです。
一方、女性は全体でもわずか3例の発症だっため、どの年齢層においても発症率は非常に低かったようです。
心筋炎を発症した54例のうち37例(69%)は、2回目接種後に発症し、その多くが2回目接種後3-5日以内に発症しているようです(グラフ1)。
症状としては、"胸の痛み(82%)"のほか、"発熱(9%)"、"呼吸苦(6%)"、"動悸(2%)"などがあったとのことです。
また、発症した例の65%は、退院後の治療も必要ない状態で、退院したとのことで、多くが軽症~中等症で済んでいたとのことです。
次に、もう一つの論文の結果です
この論文は、2020年12月から2021年5月までにイスラエル国内で発症したワクチン接種後の心筋炎136例について、解析しています。
全体でみると、心筋炎発症率は10万人あたり1.7人で、男性に限定すると10万人あたり3.2人でした。
最も発症率が高かったのが16-19歳の男性で、10万人あたり13.7人、そのうち91%が2回目接種後でした(グラフ2)。
そして、心筋炎を発症した人の95%は軽症だったとのことです。
ところで、心筋炎はワクチン以外の原因でも起こり得る病気※なので、ワクチン接種後に発症した心筋炎といっても、ワクチンとの因果関係を突き止めるのはなかなか難しいところです。
(※米国では、コロナ禍前の15〜18歳の心筋炎発症率は、10万人あたり約2人(男性が約3分の2)だそうです)
そこでこの研究の価値あるところは、「コロナ禍前の2017-2019年」と「ワクチン接種時期(2020年12月から2021年5月)」とで、心筋炎の発症率を比較しているところです(図表)。
これを見ると、心筋炎の発症率がコロナ禍前と比べてワクチン2回目接種後は約5.3倍高くなっています。
さらに、16-19歳の男性に限ると、その発症率は、コロナ禍前と比べてワクチン2回目接種後は約13.6倍高くなっていたそうです。
2つの論文結果をまとめてみましょう。
・心筋炎の発症は、全体で見ると10万人あたり2人前後であった
・10-20代の男性では、発症率が高く、10万人あたり10-13人程度であった
・心筋炎の発症は、ほとんどが2回目接種後3-5日以内であった
・ワクチン接種後に発症した心筋炎の多くが軽症~中等症で、問題なく退院した
・ワクチン接種時期の心筋炎発症率は、コロナ禍前と比べて明らかに高くなっていた
この結果だけをみると、ワクチンに対する恐怖感が強くなってしまいます。
しかし、6月に米国で12歳以上までワクチン接種を適応拡大した際も、心筋炎の副反応は知られており、そのリスクについて議論されていました。
では、心筋炎のリスクは知られていながら、適応拡大に至った経緯はどのようなものだったのでしょうか。
12歳までワクチン接種が適応された経緯
米国疾病予防管理センター(CDC)の報告によると、ワクチン接種を受けた12〜17歳の男の子では、10万人あたり7件程度(0.005%)の心筋炎が発症する可能性があるといわれていました。
つまり、今回のイスラエルからの報告(10万人あたり10-13人程度)は、(若干高めでしたが)それほどの大きな違いはありません。
6月に米国で12歳以上の子供まで適応拡大するに至った判断基準が以下の試算でした。
① 12-17歳がワクチン接種をすると、100万人あたり5,700件の感染、215件の入院、2人の死亡を防ぐことができる
② コロナ感染後の心臓にかかわるリスクが、ワクチン接種後のリスクよりもはるかに高い
特に②については、大学の運動選手を対象とした研究で、コロナ感染後約2.3%(1597人のうち37人)もの人に心筋炎所見が見られたという結果がありました。
たしかに、ワクチンによる心筋炎の発症率(0.005%)と比べると明らかに高く、二つのリスクをてんびんにかければ妥当な判断であったといえそうです。
現在の科学者たちの意見
これらの経緯と今回の論文結果を踏まえた科学者たちの、「子供のワクチン接種」に対する意見をいくつかご紹介します。(いずれもニューヨーク・タイムズ紙に掲載されていたもので、米国、欧州の科学者個人の意見です)
「子供の重症化が非常にまれである以上、完全に安全とは言えないワクチンを適応するべきでない」
「ワクチン接種後の心筋炎が、長期的にどう影響するかを知ってから適応すべきである」
「心筋炎のようなまれな副反応のリスクを証明するには、国の人口レベルでデータが必要になるが、それから適応しては手遅れになるかもしれない」
「子供に免疫を与えることは、感染の連鎖を断ち切り、ウイルスを封じ込めるのに役立つ」
「子供が大人に感染させるのを防ぐために、予防接種をすることは道徳的、倫理的に正しいことではない」
これらの意見をみていると、
ワクチンが、
「子供にとって”安全か”」それとも「子供にとって”安全ではないか”」
ではなく、
ワクチンは、
「”子供”の安全(感染予防)のためか」 それとも「”社会”の安全(感染拡大防止)ためか」
の軸で、議論されているように見えるのが、少し気になるところです。
(政策を決定する側の科学者にとっては、それは仕方のないことかもしれませんね。)
ただ、科学者たちでも「子供のワクチン接種」について、意見がかなり分かれていることだけは間違いなさそうです。
まとめ
ここまで読んで頂くと、「子供のワクチン接種」についての見解が一致することは、非常に困難であることがわかると思います。
今回ご紹介した論文結果からすると、欧州各国の方法「子供には、1回接種に限定して許可する」が、”現時点での落としどころ”かもしれません。
今後日本でも、「子供のワクチン接種」についての議論は起こってくると思われます。
たとえ日本で「子供のワクチン接種」が適応になったとしても、それが”義務”になることはありえないでしょう。
そうなると、「我が子にワクチンを接種させるかどうか」を最終的に判断するのは、(私も含めて)親です。
我が子の安全を考えながらこういった判断するには、”正しいデータ”をもとにした、”適切な認識”を持つことが大切かと思います。
本コラムを読んでいただいて、そのきっかけになっていただければ幸いです。