第46回:筋トレは長生きの秘訣!?
昨年末頃から当院で、透析患者さんに向けた透析前、透析中の運動を始めました。
当初は私自身もその効果を強く期待したものではありませんでしたが、患者さんのADL(日常生活活動度)の維持だけでなく、
精神的な改善など色々な面において、思っていた以上に良い効果を生み出しています。
そこで、今回は運動の中でも筋トレの有効性について焦点をあててご紹介したいと思います。
運動の種類とは?
運動には、一般的に”有酸素運動”と”レジスタンス運動(いわゆる筋トレ)”、”柔軟体操”の3種類があるといわれています。
これまで、「健康のための運動」というと、どうしてもランニングやウォーキングなどのような”有酸素運動”に重きを置かれていました。
(実際、有酸素運動と健康に関する研究結果は数多くあります)
2018年に発表された身体活動ガイドラインには、以下のように書かれています。
① なるべく座る時間を減らすべきである
② 何もしないよりは、どんな方法でも動いていたほうがマシである
③ 1週間に150-300分程度の中強度※1の有酸素運動もしくは、75-150程度の高強度※の有酸素運動を行うことが基本として健康によい
④ 1週間に2日以上、筋トレを行うと更に健康によい
※1)ちなみに、先程出てきた「中~高強度の有酸素運動」とは、エネルギー消費量が安静時の3倍以上の運動のことと定義されています。
例えば…
・少し速さを速めたウォーキング
・階段の昇降
・自分の体重を使った軽い筋力トレーニング
・掃除機かけ
・子どもとの遊び などです。
つまり、有酸素運動と筋トレの両方が推奨されているわけですが、基本として有酸素運動に焦点が当てられています。
というのも、筋トレと健康(特に心血管疾患による死亡リスク)の関連性に関する研究結果が少なく、筋トレはあまり日の目を浴びて来なかったわけです。
しかし、最近、”サルコペニア※”という言葉もよく聞かれるようになり、筋肉量の重要性も語られるようになってきました。
※ 加齢により全身の筋肉量と筋力が低下して、身体能力が低下した状態
そこで今回は、中高年者のレジスタンス運動(筋トレ)に関する研究結果をご紹介します。
どんな研究?
今回の研究は、がんのスクリーニングで行ったアンケート調査を利用して、約10万人の参加者(平均71歳)を平均9.6年間調査しています。
そして、その参加者の筋トレ習慣の頻度と有酸素運動習慣の頻度から
① 全ての原因による死亡(全死亡)
② 心血管疾患による死亡
③ がんによる死亡
それぞれのリスクがどれほど違うのかを確認しました。
筋トレもしたほうがよい!
結果です。
有酸素運動の影響をなくした(補正した)場合の筋トレの効果(つまり筋トレ単独の効果)を見てみると、全死亡や心血管系による死亡は、どちらも10%近くリスクが低下しました(グラフ1の赤枠)。
一方で、がんによる死亡リスクは筋トレをしてもあまり変わりなかったとのことです(グラフ1の灰色棒)。
また、筋トレの頻度で見てみると、
全死亡や心血管疾患による死亡とも、月1-3回もしくは、週1-2回が最も効果が高かった(15%ほどリスクが低下)ようです(グラフ1の緑枠)。
しかし、週に3回以上の筋トレをやっていた人を見てみると、死亡リスクを減らす効果が逆に低くなっているようです(グラフ1の黄色矢印)。
このことからも筋トレのやり過ぎは、逆効果といえるかもしれません。
次に有酸素運動と筋トレの関係を見ています。
これを見ると、有酸素運動をしなくても筋トレだけで一定の効果があるようですが(グラフ2の赤枠)、有酸素運動も一緒にやることで死亡リスクを下げる効果が高まるようです。
例えば、週1-2回程度の筋トレと適量の有酸素運動を行うことで、死亡リスクが約41%も下がる結果となりました(グラフ2の緑枠)。
また、(先程書いた通り)筋トレ単独をやり過ぎる(週3回以上)と死亡リスクを下げる効果が低下しましたが、
筋トレと併用しながらの有酸素運動は、時間が長いほど効果が高まる傾向にあるようです(グラフ2の紫矢印)。
まとめ
今回の研究結果をまとめてみます。
① 有酸素運動の影響とは関係なく、筋トレは死亡リスクを下げる効果がある
② 筋トレは、月1-3回もしくは、週1-2回程度が望ましく、やり過ぎ(週3回以上)は逆効果
③ 有酸素運動と筋トレを併用すると、死亡リスクを下げる効果は更にアップ
④ 有酸素運動は、やればやるほど効果もアップする
これまで、有酸素運動の重要性はよく知られていましたが、筋トレも少なからず健康によいようです。
特に、どちらかに偏らずに一緒にやってみるとよいようですね。
筋トレというと、腕立て伏せやスクワット、ダンベル運動などを想像してしまいますが、日常生活でも「重いものを運ぶ」「エスカレーターではなく階段を登る」など、
意外とできることはあります。
日常生活でも積極的に筋肉を使うことを意識するとよいかもしれませんね。