第51回:(紅麹で話題の)ファンコニー症候群とは?
紅麹による腎障害の実態が少しずつ明らかになってきました。
4月1日に日本腎臓学会から出た中間報告では、初診時の症状として、「倦怠感」「食思不振」「尿の異常」「腎機能障害」が半数以上に認めたそうです。
さらに、ほとんどの患者さんで、「ファンコニー症候群」の症状が見られたとのことです。
「ファンコニー症候群(Fanconi症候群)」とは、腎臓専門医でないとあまり馴染みのない、かなり”レア”な病気です。
今回は、ファンコニー症候群がどのような病気かを、腎臓専門医がなるべく簡単に(!?)ご説明したいと思います。
ファンコニー症候群とは?
ファンコニー症候群とは、腎臓において、”再吸収”の役割をする「尿細管(にょうさいかん)」が障害される病気です。(尿細管の役割については⇒こちら)
なかでも、近位尿細管(尿細管は、”近位”と”遠位”に分かれます)が広い範囲で障害された場合に起こります。
尿細管は「尿として体から排泄されそうになった大事な栄養素やミネラル、水分などを、体内にもう一度吸収する(=再吸収)役割」を担っています。
特に近位尿細管は「糖分やアミノ酸、リン、尿酸、重炭酸などの栄養素やミネラルを再吸収する場所」です。
そのような再吸収の機能が障害されるということは、糖分やアミノ酸、リン、尿酸、重炭酸などが「尿として体から過剰に出てしまい、体内で不足してしまう」というわけです。
これが、ファンコニー症候群の病態です。
症状は?
糖分やアミノ酸、リン、尿酸、重炭酸など不足するとどういう症状が出るでしょう?
じつは、糖分やアミノ酸、リン、尿酸の不足では、なかなかこれといった症状が出てきません。
症状の多くは、重炭酸不足によって、体が酸性に傾いたこと(アシドーシスといいます)によるものが中心になります。
体が酸性に傾くと、食欲不振や嘔吐、それに伴う脱水症や脱力などが起こりやすくなります。
また、ミネラルバランスがくずれることで、脱力のほか、手足のしびれなども起こることがあります。
ただし症状があまり出なくても、血液検査や尿検査で確認すると、ファンコニー症候群らしい異常値※が出ている場合は十分あります。
※ 専門的にいうと、尿糖、低リン血症、低尿酸血症、アルカリ尿、低カリウム血症、代謝性アシドーシスなどです
ですので、一度医療機関で異常がないかを確認してもらうのがよいでしょう。
一方、ファンコニー症候群だけであれば、「尿を作る」という腎臓の根本的機能が悪くなる(腎不全になる)ことはそう多くありません。
しかし、尿細管障害が強く加わったり、長い間そのままになっていると、腎機能にも影響が及び、今回の一件のように人工透析が必要になる例もあるかもしれません。
原因は?
ファンコニー症候群には、特に原因がない場合(原発性と呼ばれます)と、原因がある場合(二次性と呼ばれます)に分かれます。
① 特に原因がない場合: ほとんどが乳児で、遺伝子異常によるものです。
② 原因がある場合: 大人が発症した場合には、こっちです。
原因とは...
血液のガン(骨髄腫やアミロイドーシス)のほか、膠原病などに合併することがあります。
また、(今回の紅麹のように)薬剤(抗生物質や抗がん剤、漢方薬など)だったり、重金属や有機溶媒などの工業物質による中毒でも起こりえます。
治療は?
もし、原因となる病気(ガンや膠原病など)があるならば、その病気の治療を行うことになります。
そして、体内のさまざまな栄養素の不足による症状が出ているのであれば、その補充(点滴など)が行われれます。
原因となる薬剤や工業物質があるならば、その中止によってある程度の回復が見込めます。
そのほか、尿細管の炎症が強い場合には、ステロイドなどの投与も行われる場合があります。
しかし、「症状は?」でも書いた通り、原因物質に腎臓が暴露されている時間が長くなると、元に戻らないほどの障害が残る可能性があるので注意が必要です。
まとめ
今回の紅麹問題の腎障害が少しずつ明らかになり、その多くが尿細管障害が中心のようです。
これまでに紅麹関連の腎障害に対して、腎臓の組織を顕微鏡で確認する検査(腎生検)を行った例では、
「尿細管間質性腎炎」「尿細管壊死」「急性尿細管障害」などを主に認めたそうです。
腎臓の障害はなかなか症状が出にくいとされ、特に尿細管単独の障害の場合は、その傾向が強くあります。
ですので、「症状がない」だけで、「問題ない」とは専門家であっても言えません。
ご不安な方は、一度は医療機関で血液検査、尿検査などをぜひチェックしてもらうとよいでしょう。