第50回:急性腎障害とは?
今回の紅麹関連ニュースで「急性腎障害」という言葉をよく耳にするかと思います。
この「急性腎障害」とはどのようなものなのでしょうか?
腎臓専門医の立場から、がなるべく簡単に(!?)ご説明してみようと思います。
※ コラム「紅麹による腎障害とは?」もご参考にください
急性腎障害とは?
「急性腎障害」とは、数時間~数日の間に急激に腎機能が低下する状態のことをいいます。
つまり、「原因が何であれ、急激に腎機能が落ちてしまう状態」のことすべてをまとめた病態です。
ですから、「急性腎障害」といえども様々な病状と原因があるわけです。
急性腎障害の3つの分類
急性腎症を分類しようとすると、大きく3つに分かれます。
1.”腎前性”急性腎障害
2.”腎性”急性腎障害
3.”腎後性”急性腎障害
これは、「腎臓をとりまくどこの場所が原因となっているか」で分かれています。
紅麹による腎障害の原因は明らかではありませんが、「腎性急性腎障害」であった可能性が高いのではないかと思われます。
1.腎前性急性腎障害とは?
紅麹の腎障害に関するコラムでも書きましたが、
腎臓は、血液が通過することで、尿を作ります。
しかし、何らかの理由で「そもそも腎臓に十分な血液が通過してこない」状態が、「腎前性急性腎障害」といいます。
理由は様々で、例えば…
脱水症:身体に十分な水分(=血液)がない状態
心不全:体中の臓器に血液を送るポンプ(=心臓)が機能していないため、腎臓まで血液が十分に到達しない状態
重篤な感染症:生体反応として血圧が大きく低下してまうため、血液が腎臓まで到達しない状態
大量出血:そもそも血液が足りない状態
などです。
そしてこの状態が長く続くと、尿細管と呼ばれる場所が壊死してしまい、「急性尿細管壊死」などに至ります。
この状態まで至ってしまうと、腎臓が完全には回復できない場合もあります。
腎前性急性腎障害の治療
腎臓を通過する血液が足りていないので、基本的にはそれを補充することを考えます。
つまり、補液(点滴や輸血)が中心になります。
また、心不全の場合には、心機能を改善するような治療を、感染症であれば抗生物質なども組み合わせて行います。
2.腎性急性腎障害とは?
「腎臓そのものが、何らかの理由で壊されてしまっている」状態を「腎性急性腎障害」と呼びます。
これまた原因は様々ですが、薬剤や体外から摂取した物質などが原因のことが多く見受けれられます。
これらの場合、特に”尿細管間質”と呼ばれる部位に障害が加わることが多く、「尿細管壊死」や「尿細管間質性腎炎」と呼ばれる状態となります。
その他、地震などの災害に伴う外傷などで起こる「横紋筋融解症(身体の筋肉が壊されてしまう状態)」や、
腎臓での免疫異常「急速進行性糸球体腎炎」でも
腎性急性腎障害は起こります。
腎性急性腎障害の治療
もし薬剤や何らかの物質が原因なのであれば、原因となる薬剤や物質をなるべく早く中止することがとても大切です。
そして、腎臓に十分な血液が供給されるような状態を保ちつつ(輸液や血圧管理)、腎臓が回復してくるのを待つことになります。
もし尿が満足に出ない状態が長く続いている場合、体内に老廃物が溜まって尿毒症となってしまうので、
人工透析などで老廃物を除去する必要も出てきます。
尿細管間質性腎炎の場合には、薬剤に対するアレルギー反応が原因のことも多いため、ステロイドなどが使われたりもします。
3.腎後性急性腎障害とは?
血液は腎臓を通過すると、不要な水分や老廃物は尿として排泄されます。
この「尿が流れる通り道が何らかの原因で障害され、尿が通過できなくなる」と、腎臓にも負担がかかって腎障害を起こします。
これを、「腎後性急性腎障害」といいます。
原因は、尿路結石や抗がん剤治療後の「腫瘍崩壊症候群」と呼ばれる状態などで起こります。
腎後性急性腎障害の治療
尿の通り道に障害が加わっているので、それを取り除くことになります。
つまり、結石の除去などが主な治療となります。
急性腎障害は治るの?
急性腎障害は、なるべく早く発見して、なるべく早く対処すれば、治ることが多い病態です。
しかし、腎前性急性腎障害のところでも書いたように「急性尿細管壊死」まで至ってしまうと、完全に回復することは難しくなります。
特に尿が出なくなってからは、数日間の対応がその予後を大きく左右してきます。
また、原因や状態によっては集中治療室での治療が必要になったり、場合によっては亡くなる方もるのは事実です。
実際、(原因や状態は何であれ)急性腎障害に至った患者さんの予後を調べた研究によると、
腎機能が完全に回復できた人は、全体の約3-6割程度とされています。
今回の紅麹関連ニュースで報道されている死亡例が、紅麹とどこまで関係しているかは不明ですが、
気になる症状があれば早めにご相談してみるのが良いでしょう。