第4回:モデルナワクチンは大丈夫? ~”モデルナ・アーム”とは~
先日、日経新聞電子版に以下の記事が記載されていました。
【モデルナ2回目接種、翌日の発熱78%】米モデルナ製の新型コロナウイルスワクチンの2回目接種後、78%の人が翌日に発熱し、病気休暇を取った人も39%いたことが4日、厚生労働省研究班の調査で分かった。研究班は少なくとも2回目接種の翌日は勤務の予定を入れないことを呼びかけた。研究代表者は「接種翌々日も勤務できない人が1割程度いる前提で勤務体制を組んだ方がよい」と指摘している。(8月4日 日本経済新聞より 一部抜粋)
大規模接種会場や職域接種を中心に取り扱われているモデルナ製ワクチン。
最近、接種後に接種部位周辺の腕が強く腫れてしまう、通称”モデルナ・アーム”(海外ではCovid-Armと呼ばれています)がメディアなどでも報道されています。
「どうやらモデルナ製ワクチンは、ファイザー/ビオンテック製ワクチンよりも副反応がありそうだ」という印象をお持ちの方も多いかと思います。
当院ウェブページの新型コロナウイルスワクチンQ&Aに載せた、ワクチン添付文書による副作用発現頻度と比べても実際の頻度は異なるようです。
そこで、今回は最近話題にされることが多い”モデルナ・アーム”とはどんなものなのか、現在分かっている範囲で解説していきたいと思います。
モデルナ・アーム(Covid-Arm)とは?
モデルナ・アーム(Covid Arm)の例 (N Engl J Med 2021; 384:1273-1277より引用)
通称”モデルナ・アーム”とは、多くが接種してから7日程度たった後、注射部位周辺が痒みと痛みを伴って紅色に腫れてくる(水疱ができたり硬く腫れることもある)ものをいいます。
多くは4~5日(長いと3週間程度)たつと自然に治まります。
接種後ある程度の時間がたって出現することが一番の特徴です(遅延型アレルギー反応といいます)。
一方、ファイザー/ビオンテック製ワクチン接種後でも起こり、8割以上の人が接種直後~2日以内に経験出現するといわれる、注射部位付近の痛みや筋肉痛、腫れ(即時型アレルギー反応といいます)とは区別されています。
治験(発売前)の段階で、モデルナ・アーム症状がおこることがわからなかったの?
およそ1万5000人に接種が行われた臨床試験(偽薬を含めると参加者3万人超)では、初回接種後に244人(0.8%)、2回目接種後に68人(0.2%)にモデルナ・アームと似たような症状が認められたと報告されています。(N Engl J Med 2021; 384:403-416)
発売後に報告されている発現頻度(日本では1回目接種後5.6%、2回目接種後1.4%)よりもだいぶ少ない結果です。
この違いはなぜなのでしょう?
実はこの論文をよく読んでみると、こういった注射部位付近の副反応は接種後7日以内に出ることを前提に調査されていることがわかります。
つまり、遅延型アレルギー反応という、接種後7日以降に出現する副反応のことまで、あまり想定されずに調査した結果だったようです。そのために遅延型アレルギー発生を見逃していた可能性があるというわけです。
モデルナ・アームが起こりやすい人は?
メディアなどですでにお聞きしているかもしれませんが、若い女性に多く出現するといわれています。
海外の小規模な統計データによると、38歳前後の女性(女性8割、男性2割)が中心のようです。(
またファイザー/ビオンテック製のワクチン接種者からは、この遅延型アレルギー反応の報告がなく、モデルナ製ワクチンに特有の副反応といえるようです。
なぜモデルナ製ワクチンだけ起きるの?
未だ不明のようです。
ファイザー/ビオンテック製ワクチンもモデルナ製ワクチンも、同じメッセンジャーRNAワクチンと言われ、根本的な成分は大きく変わりません。
ワクチン添加剤や脂質ナノ粒子と呼ばれる物質が関与しているかもしれないといわれています。
一方、即時型アレルギー反応(アナフィラキシーも含む)に関与しているといわれるポリエチレングリコール※1は、どちらのワクチンにも含まれており、モデルナ・アームの遅延型アレルギー反応におけるその関与は不明とされています。
※1:ポリエチレングリコールとは、大腸内視鏡検査の時に下剤として使用する薬品です。そのほか様々な医薬品に添加剤として含まれ、化粧品にも含まれていることがあります。
1回目でモデルナ・アームが出現したけど、2回目は接種して大丈夫?
大丈夫です。
1回目接種後に”モデルナ・アーム”が起きた人の場合、2回目接種後も同様の症状が出現する可能性は低いようです。
海外データによると、1回目接種後にモデルナ・アームが出た人の場合、2回目接種後には即時型アレルギー反応(腫れ・筋肉痛など)が一般的な頻度と同様に出てしまいます。
しかし、いわゆるモデルナ・アームとされる遅延型アレルギー反応は2回目接種後にはほとんど起こらなかったそうです(0%※2)。(J Allergy Clin Immunol Pract. 2021 Jun; 9(6): 2480–2481)
※2:ただし、即時型アレルギー反応と遅延型アレルギー反応の違いは、接種後どれだけたって出現したかの違いでだけ判断していることから、発症時期は早かったものの本当に即時型アレルギー反応だったのかが、はっきりしない人も含まれているようです。
いずれにしろ、1回目にモデルナ・アームが出ても2回目は問題なく接種できると思ってください。
ちなみに2回目の投与で遅延型アレルギー反応が再発しない理由は、アレルギー治療で行われる”減感作”と類似した機序と想定されていますが、明確な理由は不明とのことです。
まとめ
最後にモデルナ・アームについて簡単にまとめます。
①1 回目接種後、約 7 日後くらいで起きやすい、2日以内に起きる注射部位の反応はモデルナ・アームではない
②若い女性で起きやすい
③無治療でも多くは症状発症から約 5 日後に自然に治る
④1回目接種後にモデルナ・アームが起きても、2 回目接種は問題ない
モデルナ・アームのような副反応は一時的にはつらいかもしれませんが、過剰に心配する必要はありません。
むしろ一日でも早く、そして一人でも多くの方が、ワクチンを接種して感染拡大を防止していくことが大切です。
このコラムを読んで頂いて、少しでもワクチンに対する不安が減るようであれば幸いです。
ワクチン供給不足などの問題もありますが、当院もできるだけ皆様にワクチンを接種していただけるよう努めていきたいと思います。
※ 当院で取り扱っているワクチンは、ファイザー/ビオンテック製のものです。