第39回:植物代替肉は腎臓病の救世主になるのか?⑤(最終回) ~植物代替肉の潜在力はいかに?
前回は、植物由来の食生活をした場合のメリット・デメリットについてご紹介しました。
今回はようやく最終回です。
”植物代替肉”をもう少しくわしく見ていきたいと思います。
植物代替肉の正体とは?
植物代替肉の主成分は、大豆やえんどう豆などの豆類のことがほとんどです。
ただ、これを練り上げて作っただけだと、豆腐やおから、油揚げに似た食べ物になってしまいます。
では、肉に似た食べ物にするには、何が必要なのでしょう?
本物の牛肉に近づけるには、いくつかクリアしなければならない牛肉ならではの特徴(主に4つ)があるそうです。
それは、
① 食感(弾力性)
② ジューシーさ
③ 見た目
④ 風味(フレーバー)
だそうです。
それぞれの特徴を、植物代替肉がどのようにクリアしているのかを見てみましょう。
① 食感(弾力性):
植物由来のボソボソ感を、筋肉由来の弾力に似せるために、大豆やえんどう豆、小麦を使ってたんぱく質を分離・配合しなおして、作り上げているそうです。
② ジューシーさ:
これは、やはり”油”を使います。
しかし、ここではココナッツオイルが使われることが多いそうです。
なぜかを考えてみましょう。
みなさん、牛脂と植物油を思い出してみてください。
動物由来の牛脂は”個体”ですが、植物由来の植物油は”液体”ですね。
この違いは”飽和度”のちがいと表現されます。
つまり、動物由来の油は、「飽和度が高い」のです。
牛脂は、口の中の温度でゆっくりとける特徴があり、これが”ジューシーさ”の原因になっているようです。
しかし、植物油は「飽和度が低い」ため、液体です。
口の中に入れてもやはり液体であるため、”ジューシーさ”として感じにくいのだそうです。
そこで、ココナッツオイルの登場です。
植物由来の油の中でも、飽和度が牛脂に近い油がココナッツオイルなのだそうです。(たしかに、ココナッツオイルはビンの中で固まって売ってますね)
しかし、とけるスピードが動物由来の油よりは速いため、どうしても「ジューシーが物足りなくなってしまう」といわれています。
③ 見た目:
「血もしたたる赤い肉」という表現がありますが、牛肉の赤みを似せるのには、大豆などの植物の根に含まれる”レグヘモグロビン”という物質が使われれているそうです。
この物質は、鉄分がふくまれていることから、本物の血液に近い色とにおいも表現できるそうです。
④ 風味(フレーバー):
実は、このフレーバーについてはだけは、何が使われているか不明なのだそうです(米国では、フレーバー剤の詳細を原材料名に記載する必要がないらしいです)。
そのため、何らかの食品添加物が使用されている可能性が高く、代替肉の安全性においてはネックになってくるところです。
代替肉はおいしいのか?
最近は、大手食品会社や、製薬メーカー、スタートアップなどが様々な代替肉を出しており、スーパーでも「植物肉コーナー」を見かけるようになりました。
私も4種類ほど、植物代替肉を味見してみましたが…
正直、「おいしい!!」とは、なかなか言えませんでした。
どうしても豆腐の食感、においがぬけ切れていないのが実状のようです。
しかし、(前回のコラムでもご紹介しましたが)昨年秋になって、米国で人気のビヨンドミート製の代替肉を買うことができるようになりました。
期待感を持って食べてみると…
”牛肉”の味を想定するとちょっとちがいますが、それなりにおいしくいただくことができました。
(ちなみに、中東料理のファラフェルにして食べるのが個人的なオススメです)
しかし、かなり「味が濃い」というのが印象的です(これについては、あとで詳しく書きます)。
おそらく、豆臭さを消すため、やはり様々な加工がされていることも理由と思われます。
ということで、味としては「まだまだと改良の余地がありそうだ」と、個人的には思います。
代替肉は環境にやさしい?
医療従事者のコラムなので、栄養や健康のことばかり書いていますが、代替肉の利点として「環境負荷軽減効果」もはずせませんので、簡単に触れておきます。
米国のミシガン大学研究センターの2018年のレポートでは、約120gのビヨンドミート製バーガーを製造した場合と、同量の牛肉製品と製造した場合との、環境への影響を比較調査しています。
調査結果によると、ビヨンドミート製バーガーは、ビーフバーガーよりも温室効果ガスの排出量が90%少なく、エネルギー使用量も46%少なく、水の利用量は99.5%少なく、さらに土地の利用面積は93%少なく済んでいたとのことです(図)。
これを見ると、たしかにかなりの環境負荷軽減になっているようです※。
※ しかし、このレポートは「代替肉製造工場での環境負荷」がカウントされておらず、これをふくめるともう少し環境負荷削減効果は少なくなると思われます。
結局、代替肉は健康、そして腎臓病にとってよいのか?
米国のファーストフード店Carl'sJrで売られているビヨンドミート製代替肉チーズバーガーと、ビーフチーズバーガーの主な成分表が、ウェブ上で見れるので比較してみましょう。
代替肉 | ビーフ | |
カロリー(kcal) | 770 | 670 |
脂肪(g) | 40 | 37 |
たんぱく質(g) | 30 | 28 |
塩分(㎎) | 1550 | 1210 |
これを見ていただくと、必ずしも代替肉が健康によいとは言えないことがわかります。
特に腎臓病患者さんにとって重要になってくる代替肉の特徴が、塩分量です。
本物の牛肉と比較して、植物由来の代替肉は塩分がかなり多いといわれています。
例えば、約120gの牛肉パテには約75㎎の塩分が含まれますが、ビヨンドミートでは390㎎、インポッシブルフーズでは370㎎と、約5倍もの塩分を含んでいるとのことです。
これは、塩分制限がとても大切な腎臓病の人にとっては大きな問題です。
たんぱく質量はほとんど変わらないので、(以前のコラムでも書いた通り、リンの吸収率の差から)血液中のリン濃度の上昇は代替肉の方が低いと予想されますが、
塩分量や食品添加物を考慮すると、まだまだ腎臓病患者さんの救世主とはいいがたいのかもしれません。
ちなみに、2019年のハーバード大学の研究者が、植物由来の代替肉が健康と低炭素の両方を満たすことができるかについて意見しています。
それによると、「赤身の肉をナッツ・マメや、その他の植物性食品に置き換えると、死亡率と慢性疾患のリスクを下げることができるが、植物性タンパク質を加工して作った代替肉は健康上の利点をもたらすと考えられない」とのことです。
植物由来食材と代替肉についてまとめ
結論からすると、本当の肉を植物代替肉にすべて代えてしまうと、健康上・栄養上のデメリットがそのメリットに勝ってしまうと思われます。
ただ、これまで書いてきた内容からわかる通り、植物由来の食材は(環境負荷軽減効果も含めて)メリットがあるのも事実です。
結局は、植物由来食材と動物由来食材のバランスが大切ということかもしれません。
先ほどご紹介した赤身肉との関係を調べた研究では、「1日の3食のうち1食を植物由来のたんぱく質摂取に変える」ことを勧めています。
動物由来のたんぱく質中心の生活から、植物由来のたんぱく質の比重を少し多くしていくことが、無理なくできる方法といえますね。
今後、植物由来のたんぱく質をまるで動物由来の肉とおなじ感覚で食べられようになり、塩分量などの問題もクリアできれば、
腎臓病患者さんの食事制限ストレスへの解決策にもなり得ることと思います。
まだ道半ばのようですが、よりよい代替肉が開発されることを期待しましょう。