メニュー

第7回:透析患者さんのワクチンの効果は、健常人と同じ?違う?

[2021.08.24]

先日、米国では9月下旬より、3回目のワクチン追加接種(ブースター接種)を行う方針が発表されました。

 

”ブースター接種”とは、ワクチン接種後時間が経つとその効果が薄れてきてしまう(抗体価が下がってきてしまう)ために、3回目を打つことで抗体価を更に上昇させて予防効果を高めようとしているわけです。(※ブースター接種について説明しているページは、ウェブ上にも数多くありますので、詳しくはそちらをご参照ください。)

ところで全国の透析患者さんは、”基礎疾患を有する者”に該当するため、通院医療機関などで早い時期にワクチン接種が済んでいるかと思います。

 

そのため、これからの秋冬に向けて、”ワクチンの効果が薄れてくる可能性”に不安を感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。また、透析患者さんのワクチン効果についての情報が少ないのも現状です。

 

そこで、今回は透析患者さんに焦点を当てて、現在わかっていることをご紹介したいと思います。

※今回のコラムは少し長いです…

新型コロナウイルス感染は、透析患者さんと健常人で違うのか?

もうすでにご存じの方も多いと思いますが、前提としてお伝えさせていただきます。

 

まず初めに透析患者さんは、週3回人工透析を行っていたとしても継続的に尿毒素が体にたまってきてしまう状態です。

 

そのため、常に「尿毒症」状態であるといえます。

 

尿毒症の状態では、様々な外的に対する抵抗力が弱い(免疫反応が起きにくい)ことは以前より知られていました。

 

そして、今回の新型コロナウイルス感染症についても、健常人と比べると重症化率が高い(7-8倍)ことがわかっており、「ワクチンによる感染予防・重症化予防効果がどれほどなのか」がとても重要になります。

透析患者さんと健常人とは、ワクチンの効果が違うのか?

まず、"世界で最もワクチン接種が進んでいる国"として有名なイスラエルからの報告をご紹介します。(Nephrol Dial Transplant, 2021,36( 7), 1347–1349)

 

透析患者さん122人について、ファイザー製ワクチンの2回目接種2-6週後(中央値で36日目)の抗体価を見たところ、93.4%の人は十分量の抗体価をもっており、健常人と大きな差はなかったとのことです。

 

もう1つ、これもイスラエルからの報告ですが、透析患者さんがファイザー製ワクチン2回目接種30日後に抗体価を測定したところ、健常医療従事者(対照群)と、抗体価に大きな違いがなかったとのことです。(CJASN 2021, 16 (7) 1037-1042)

 

つまり、透析患者さんのワクチン投与後の抗体価が健常人と同等であったということは、「ワクチンによる予防効果もほぼ同等」の可能性があるといえるわけです。

 

その他、これらの文献では抗体価が上がりやすい要因として、「年齢が若いこと」や「栄養状態がよいこと」等が挙げられています。たしかに”若さ”や、”栄養状態”は、どんな人でも抵抗力に強い味方になるようです。

 

しかし、「健常人と比べて透析患者さんの抗体価に遜色がなかった」ことは安心材料ですが、注意点もあります。

 

それは、「2回目接種からおよそ1か月後の抗体価だけを見たもの」であることです。つまり、1か月以上経った後、抗体価が徐々に落ちていく可能性、そしてそれが健常人と比べてどうかについては、調べられていないのです。

 

そこで、ワクチン効果の持続についてはどうなのかを見てみましょう。

透析患者さんと健常人とは、ワクチン効果の”持続”は違うのか?

残念ながらこれについて、(私が調べた範囲では)詳しく調べた研究はまだないようです。

 

但し、新型コロナウイルスに本当に感染してしまった後の、抗体価の変化を見た研究はあります。

 

まず、イギリスからの報告です。(Kidney International .2021, 99, 1470–1477)

 

すでに感染した形跡がある(抗体価が高い)129人の透析患者さんを対象に、2種類の抗体価が半年後にどう変わったかを調べたところ、多くの患者さん(64%と85%)が半年後も高い抗体価を維持していたそうです。

 

つまりこの結果は、半年経っても新型コロナウイルスに対する免疫を持っている可能性を示しています。

 

米国からの研究(Ann Intern Med2021 Aug;174(8):1073-1080)では、もっとたくさんの人数を対象に行っています。

 

それによると、2020年7月の時点で高い抗体価を示した(すでに感染した形跡がある)1,323人の透析患者さんのうち70%(1,003人)が、半年後も高い抗体価の範囲内を維持していたようです。

 

しかし、全体的には、抗体価は半年で徐々に低下していったとのことです(7 月と 12 月の値の比較では 21 対 13程度)。

 

”ワクチン接種”によって、”実際の感染”と同様の抗体が同じくらい作られる仮定すると、「透析患者さんでもワクチンの効果は半年ほど維持できる」可能性があるということになります。

 

但し、これはあくまで”実際の感染”後の抗体価を見たものであって、「ワクチン接種の効果ではない」ことに注意が必要です。

 

では、現在問題となっているデルタ株など、いわゆる変異株についてはどうでしょうか。

変異株に対する透析患者さんのワクチン予防効果は?

デルタ株に対するワクチンの効果については、本コラムの第5回でご紹介しました。

 

最近はモデルナ製ワクチンの方が、ファイザー製ワクチンと比べて予防効果が高い可能性があるといわれています。

 

しかし、(繰り返しになってしまいますが)日本の透析患者さんの場合、”基礎疾患を有する者”に該当することから、通院医療機関などで早い時期にワクチンを接種しており、ほとんどの方がファイザー製ワクチンを接種されているかと思います。そこで、透析患者さんにおけるファイザー製ワクチンの予防効果についての研究をご紹介したいと思います。

 

変異株には、デルタ株の他にベータ株、アルファ株などがありますが、(私の調べた範囲では)透析患者さんについてデルタ株に対するワクチンの効果を調べた研究は見当たりませんでした。

 

ただ、他の変異株について調べたドイツからの研究結果がありましたので、ご紹介します。(Kidney International (2021) 100, 697–712)

 

ファイザー製ワクチンを2回接種した透析患者さん30人について、2回目接種3週間後の抗体価を調べたところ、30人中、24人が2回目接種3週後に十分量の抗体を持っていたそうです。

 

更にその24人を調べてみると、アルファ株に対しての抗体は全員持っていたのに対して、ベータ株に対しては15人しか抗体を持っていなかったとのことです。

 

一方で、健常人18人についても調べてみたところ、18人全員がアルファ株、ベータ株に対する抗体価を十分量もっていたそうです。

 

また、抗体の量について比べてみると、健常人の方が透析患者さんと比べて高い値を示しており、健常人では強い予防効果を発揮していたと想定されました。

 

この研究結果からも、透析患者さんの場合には、「健常人と同様のワクチン接種方法だけでは、(特に変異株に対しては)十分な予防効果が得られていない」可能性があるということになります。

 

そこで、話題の3回目ワクチン接種(いわゆるブースター接種)がどうなのかを見てみましょう。

最近話題のブースター接種の効果はどうなのか?

透析患者さんについてファイザー製ワクチン3回目接種(3回目接種の時期は不明)の効果を調べたフランスからの研究をご紹介します。(Kidney International (2021) 100, 702–704)

 

それによると、45人の透析患者さんのうち、40人(89%)が2回接種後には、高い抗体価を示したそうですが、残り5人は十分な抗体価を示さなかったそうです。

 

そこで3回目を接種したところ、十分な抗体価を示さなかった5人のうち、2人は3回目接種後に高い抗体価を示したそうです。更に、2回目接種後の抗体価が低かった人ほど、3回目接種後に高い効果を示す傾向があったそうです。

 

つまり、透析患者さんの10%程は2回のワクチン接種だけでは効果が乏しいこと、そして「2回接種で効果が乏しい人ほど、3回目接種の効果が高い」可能性があるという結果した。

まとめ

これまでつらつらと、研究結果をご紹介してきましたが、簡単にまとめてみましょう。

 

① ワクチン2回目接種1か月後くらいでは、健常人と透析患者さんとでは、ほとんど抗体価は変わらなかった

② 透析患者さんの7-8割は、半年間くらい抗体を維持できていたが、全体的には抗体価は徐々に下がってしまった

③ 透析患者さんがワクチンを2回接種しても、(デルタ株以外の)変異株に対する抗体は、健常人よりも獲得しにくかった

④ 2回のワクチン接種で効果が乏しい人ほど、3回目接種が有効だった

 

つまり透析患者さんは、

 

ワクチン接種後の早い時期は、健常人と同じくらいの効果が得られている可能性があるが、その効果は徐々に弱くなっていくと思われる。変異株に対する予防効果に限ると、健常人よりも効果を得にくい可能性があり、3回目接種はより効果的かもしれない。」

 

ということのようです。

 

「…まだまだはっきりしないことが多いですね」というのが実状です。

 

しかし、唯一これだけはいえます。

ワクチンを接種した後でも、感染防止策は忘れずに!

透析患者さんも、そうでない方も、ご自身の身を守るためにも、ぜひお願いしますね。

 

 

 

 

 

 

HOME

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME