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第41回:大気汚染と腎臓病は関係がある? ~黄砂の飛来からあらためて考える~

[2023.04.23]

先日(4/13、14)、黄砂の飛来が一つのニュースになっていました。

 

確かに、当日は私が住んでいる地域も空が黄色っぽく見えてましたし、車の表面がザラザラになっていました。

 

最近、私達の身の回りでも環境に対する意識がどんどん高まっていますが、”大気汚染”というと、

 

「少し昔の公害」といったところで、以前ほど注目されなくなったような気がします。

 

私個人としては、今回の黄砂の飛来によって”大気汚染”をもう一度認識するきっかけになったように思います。

 

黄砂などのいわゆる”大気汚染”による健康被害というと、喘息やアレルギーなど呼吸器系への影響をまず考えてしまいますが、

 

(当院が専門とする)腎臓病との関連性はあまり知られていません。

 

 

そこで今回は、環境問題の中でも大気汚染と腎臓病の関連性についてご紹介したいと思います。

 

いろいろな大気汚染物質

Clin Kidney J, Volume 12, Issue 1, February 2019, Pages 19–32より引用・「黄砂」を追加

“大気汚染物資”には、実は様々な成分があることをご存知でしょうか(図1)。

 

私達がよく耳にする物質には、PM2.5がありますね。

 

これは、主に石炭、ガソリン、ディーゼル燃料の燃焼に由来する固体粒子で構成される粒子状物質 (Particulate Matter: PM) で、大きさが2.5μm(1μm=0.001mm)以下のものをいうそうです。

 

10年ほど前(2013年頃)に、中国で起きたPM2.5の高濃度現象がきっかけで、日本でも話題になりましたね。

 

その他にも、自動車や工場の煙から排出される二酸化窒素(NO2)や、一酸化炭素(CO)、PM10 など様々なものがあります。

 

今回まずは、ダイレクトに「大気汚染物質の曝露量と、腎臓病には関係性があるのか」を調べた米国からの研究結果をご紹介します。

大気汚染と腎臓病のリスク

 

この研究結果は、5大医学誌の一つ米国腎臓病学会誌に掲載されたものです(同一著者)。

 

米国の退役軍人病院に通院している200万人あまりの患者さん(80%以上が白人)について、2003年から2012年間(中央値8.5年間)追跡しました。

 

この研究では、患者さんの住所データから、自宅に最も近い航空監視ステーションに記録された

大気汚染物質(PM2.5、PM10、NO2、CO)の年間曝露量を計算し、腎臓機能の変化との関連性を見ています。

 

大気汚染物質に暴露されている量によって3段階のレベルに分けて見てみると、

 

グラフ1:Lancet Planet Health 2017;1: e267–76より引用・作成

PM10,NO2, COどれも「暴露量が多いレベルの人ほど、慢性腎臓病の発症頻度が高かった」そうです(グラフ1)。

 

また、PM2.5濃度と、慢性腎臓病の発症危険度をグラフにしてみると、「曝露量に応じて右肩上がりに危険度が増した」そうです(グラフ2)。

 

グラフ2:Journal of the American Society of Nephrology 29(1):p 218-230, January 2018.より引用・作成

だいたい、「PM2.5濃度が10μg/m3増加すると、慢性腎臓病のリスクが1.2倍程度上昇していた」とのことです。

 

ただ、これだけ見ると“地域差“、つまり

 

「各地域に住む人の経済状況のちがい」や、

 

「地域の食習慣のちがい」

 

などが大きく影響しそうに思えます(この研究では、白人が80%以上だったため、人種差の違いは少なそうです)。

 

そこで、この研究でも“都市内モデル”という方法(複雑な計算式だったので割愛します)でそのような差が生まれていないか確認ましたが、

“地域差”と関係なく、大気汚染曝露量と腎機能悪化の関連を認めた」とのことでした。

 

都市化すると腎臓病は減る!?

次に、日本におけるPM2.5話題のきっかけになった中国からの研究です。

 

この研究では、「都市化が進んで大気汚染物質が増加すると、慢性腎臓病が増えるのか」を見ています。

 

(この論文にも書いてありますが)「開発途上国の都市化」というテーマの研究なので、少し日本とは事情が異なるかもしれません。

 

2007 ~ 2010 年の間、中国の 13 の省の都市部と農村部に住む 18 歳以上の 47,000人余りの成人について、居住都市のPM2.5、NO2、そして”NLI”というスコアを調査しています。

 

※ Night Light Indexの略で、夜の明るさの度合いをスコア化して都市化の程度をみたもの

 

グラフ3:Environment International Volume 156, November 2021, 106752より作成・引用

グラフ3を見ると、PM2.5は濃度が上がれば上がるほど、慢性腎臓病にならない人と比べて、慢性腎臓病になる人の割合(オッズ比)が上がる傾向にありました。

 

一方、NO2は、15μg/m3程度の濃度で慢性腎臓病になる人の割合が高止まりになるようです。

 

興味深いのは、NLI(Night Light Index)です。

 

これは、夜に明るければ明るいほど、NLIも高くなり、都市化が進んでいると言えるものです。

 

グラフを見ると、NLIが50Unit程度になると、慢性腎臓病になる人の割合が下がる傾向にあったようです。

 

つまり、都市化がある程度進んでいくと、慢性腎臓病になる人が減る傾向にあったのです。

 

理由としては、

 

「都市化が高度になると、大気汚染物質を排出する自動車や工場が減る」、「経済状況や食生活、医療体制などが充実しくることによって慢性腎臓病もある程度予防できている」などが考えられます。

 

これは、先進諸国は、都市化が進んでいても国民が健康でいられるイメージと合致しますね。

幹線道路からの距離が腎臓病と関連する!?

もう一つ面白い研究結果をご紹介します。

 

この研究は、BMJと呼ばれる著明な医学誌の公衆衛生ジャーナルから発表されたものです。

 

この研究では、ボストン市内の病院に脳卒中で入院した患者さんの腎機能と、自宅から幹線道路までの距離との関連性を調べました(横断研究といいます)

 

グラフ4:J Epidemiol Community Health 2013;67:629-634より引用・作成

これによると、「自宅から幹線道路までの距離が近いほど、腎機能が悪い傾向にあった」そうです(グラフ4)。

 

ここでも、住んでいる地域の経済状況は人種差など様々な要素が影響してきそうなので、

”年齢”や”性別”、”人種”、”喫煙状況”、”基礎疾患”、”世帯収入”、その他”最終学歴”まで考慮に入れて分析したそうです。

 

しかし、やはり「自宅から幹線道路までの距離が近いほど、腎機能が悪い傾向」にありました。

 

ただ、この研究結果に対する解釈には注意が必要です。

 

この研究は、「自宅から幹線道路までの距離と腎機能の関係性(相関関係)を見たもので、大気汚染が直接この関係性に影響していたか(因果関係)は不明」です。

 

また、脳卒中で入院してきた人に限定したものなので、普段の生活を送っている人にも当てはまるかも不明です。

 

ただ、幹線道路沿いに住んでいる人が、脳卒中を含めて、心血管系疾患の発症率が高いという研究結果は過去にも複数出ているようで、大気汚染への暴露の影響は少なからずあるのかもしれません。

 

まとめ

 

ご紹介した結果をまとめると、「大気汚染物質は、慢性腎臓病(腎機能低下)にも影響を及ぼす可能性がある

 

この一言につきます。

 

ただし、「まだ科学的確証は得られていない」、「その機序については詳しく調べられていない」ので、はっきりと断定はできません。

 

いずれにしても、環境問題は、様々な健康に影響を及ぼしている可能性が高そうです。

 

環境問題に疎いともいえる私たち医療業界も、考えていく必要がありそうですね。

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