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第16回:透析患者さんがブースター接種に向けて知っておきたいこと ~4回目接種はあるのか?~

[2021.11.11]

日本でもブースター接種が医療従事者を中心に始まる時期になろうとしています。

 

米国ではすでにワクチンの4回目接種の話が出ており、米国疾病予防管理センター(CDC)からは免疫不全の人を対象に4回目接種が推奨されています

 

それによると、4回目接種が推奨される免疫不全の人とは、

 

1)固形悪性腫瘍

2)血液悪性腫瘍

3)リウマチまたは炎症性疾患

4)その他の内因性免疫状態または免疫不全

5)臓器または幹細胞移植 

 

だそうです。

 

ちなみに、4回目接種はブースター接種の6か月後に行うことが推奨されています。

 

透析患者さんは、現時点ではこの”免疫不全の人”の定義には含まれておりませんが、健常人と比べると免疫力が下がっていることは、知られた事実です。

 

ですので、透析患者さんもいずれ4回目接種対象に含まれる可能性があります。

 

透析患者さんのワクチン接種の効果については、8月に第7回コラムでご紹介しました。

 

そこでは、ワクチン接種後の短期間(1-2か月)でみると、多くの透析患者さんで抗体価が維持されワクチンの効果は普通の人とほぼ同等であったという結果でした。

 

当時は、ワクチン接種が始まったばかりのこともあり、まだデータが蓄積されておらず、短期的なことしかわかっていませんでした。

 

各国でワクチン接種後半年以上が経った現在は、透析患者さんにおけるコロナワクチンについて新たにどのようなことがわかってきたのでしょう?

 

そして、そこから見えてくる4回目接種の可能性を考えたいと思います。

 

透析患者さんはワクチン接種の効果が低いというのは本当?

これまで発表されてきた透析患者さんのワクチン効果に関する32研究をまとめて解析した調査結果があります(システマティックレビューといいます)

 

それによると、ワクチン接種をした透析患者さんの86%程度の人では、免疫反応があった(抗体産生された)とのことです。

 

86%が多いとみるか、少ないとみるかは分かれるところだと思いますが、健常人と比べると0.88倍程度の効果(有意差あり)とのことで、やはりワクチンの効果は弱いようです。

 

ちなみに、ブースター接種をした透析患者さんの場合には、94%の人に免疫反応を認めたらしく、ブースター接種の効果が期待されています。

透析患者さんワクチン効果は、どれくらい維持できるの?

41人の透析患者さん(平均年齢67歳)について調査したオーストリアからの報告によると、ワクチン2回目接種4週間後では抗体産生率が97.9%だったのが、6か月後には65.8%に下がり中和抗体価も10分の1未満(約92%減少)まで減少していたそうです。

 

また、感染予防に有効なレベルの抗体価を6か月後も維持していた透析患者さんは、全体の56%程度だったとのことです。

 

ちなみに、健常人で6か月後の抗体価を調査した報告によると、中和抗体価はピーク時と比べて約6分の1程度(約83%減少)ていたそうです。

 

ですから、時間経過とともに健常人でも抗体価は下がりますが、透析患者さんではその下がり方がより強いといえそうです。

透析患者さんの中でワクチン効果が弱い人はどんな人?

先ほどご紹介した調査結果によると、糖尿病を持った透析患者さんでは、免疫反応が起こりにくい傾向にあったようです。

 

その他、米国からの報告では、抗体産生率(セロコンバージョン率)の低い透析患者さんの特徴を調べています。

 

それによると、抗体産生率の低い透析患者さんの特徴として、「非白人とヒスパニック系の人種」、「透析歴が長い」、「血清アルブミン値が低い」が挙げられています。

 

これが意味することを簡単に言うと、

 

◆ 「非白人とヒスパニック系の人種」⇒白人よりも有色人種

 

◆ 「透析歴が長い」⇒透析を昔から受けている

 

◆ 「血清アルブミン値が低い」⇒栄養状態がよくない

 

ということです。

 

ワクチンによって効果に違いがあるの?

日本では(ほとんどの透析患者さんが、ファイザー製ワクチンを接種されているかと思いますので)あまり関係ないかもしれませんが、米国からの報告によると、アストラゼネカ製ワクチンを接種した透析患者さんは、最も抗体産生率が低く、約3割もの人が抗体産生をされなかったそうです。

(※ただし、ストラゼネカ製ワクチンを接種した地域は、黒人居住者が多かったことが関係しているかもしれないとのことです)

 

また、ファイザー製ワクチンを接種した患者さんの方が、モデルナ製ワクチンを接種した患者さんよりも抗体産生率は低かったようです。

透析患者さんはブレークスルー感染しやすい?

透析患者さんは免疫力が弱いことが多く、ブレークスルー感染(ワクチン2回接種後の感染)も多くなるといわれています。

 

そこで、免疫力低下をきたす病気を患っている人のブレークスルー感染を調べた報告があります。

 

これによると、健常人の場合、ブレークスルー感染率は全年齢で0.06%、65歳以上では0.13%だったそうですが、慢性腎臓病(透析していない人も含む)の患者さんでは、全年齢で0.19%、65歳以上では0.32%だったとのことです。

 

つまり、腎臓病を患っている方(透析していない人も含む)の場合、ブレークスルー感染の確率が約3倍近く高いことになります。

 

結局、透析患者もブースター接種は必要?

透析患者さんは「基礎疾患を有する人」に含まれるため、ブースター接種を行った方がよいことは、世界的にも合意が得られています。

 

透析患者さんのブースター接種については、第7回のコラムでもご紹介しましたが、その後も類似した研究結果が報告されています。

 

この論文によると、2回のワクチン接種で抗体産生反応が弱かった人ほど、3回目接種後に強く反応が出たようです(グラフ1)。

グラフ1:doi.org/10.1053/j.ajkd.2021.08.005より引用・改編

 

 

逆に、2回のワクチン接種でしっかりと抗体産生された人では、ブースター接種を行っても抗体量は大きく変化しなかったともいえます。

 

また、(この研究では2回目と3回目接種の間隔が最大13週(約3か月)と短いのですが)ブースター接種までの間隔が長いほど、3回目接種の効果が高かった(抗体増加割合が高かった)ようです(グラフ2)。

グラフ2:doi.org/10.1053/j.ajkd.2021.08.005より引用・改編

まとめ

これまで書いてきたことをまとめます。

 

透析患者さんは、

① 健常人と比べると、ワクチンによる免疫反応が起こりにくい

② ワクチン接種後、半年経つと中和抗体価は健常人と比べてもかなり落ちている

③ 半年後も感染予防効果が期待できる抗体価を維持している人は、半分程度である

④ 抗体産生率が低い人の特徴には、糖尿病がある人・有色人種・透析歴が長い人・低栄養の人がある

⑤ モデルナ製 ファイザー製 アストラゼネカ製  の順で効果が高い

⑥ ブレークスルー感染の危険性は、健常人と比べて約3倍

⑦ 2回目接種後に効果が弱かった人ほど、ブースター接種を受けた方がよい

⑧ 2回目と3回目は、ある程度期間を置いた方がよい(適正な期間は不明です)

 

以前から想定はされていましたが、透析患者さんは健常人と比べるとやはりワクチンの効果は低い傾向にあることがわかります。

 

一方で、一概に透析患者さんといっても、その免疫反応にはそれなりの個人差があることもわかります。

 

そのため、もし4回目接種の話が日本でも出てきた場合、(社会の感染状況にもよりますが)透析患者さんが一律に接種をすることにならないかもしれません。

 

場合によっては、個人の抗体価を確認して、4回目接種の対象者を決めるという可能性も考えられます。

 

いずれにしても、これらの研究結果を見ていても、まずはブースター接種をやっておいた方がよいことは言えそうですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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