第59回:透析患者さんの心臓を守る!! ― 魚油(EPA・DHA)は心血管イベントを減らせるのか? ―
「人工透析」と「心臓病」は、切っても切れない!?
人工透析を受けている患者さんにとって、とても怖い病気の一つが、「心臓や血管の病気」です。
実は、透析患者さんの死亡原因の約3割が、心不全、心筋梗塞、脳卒中などの心血管病によるものといわれています。
血圧や血糖、コレステロールの管理、そして塩分や水分管理など、私たち医療者も透析患者さんも日々さまざまな予防策を行っていますが、
「これをやれば確実に心臓病が減る」と言える治療は、これまで多くはありませんでした。
そんな中、先月 著名な医学雑誌(New England Journal of Medicine)に、
「魚油(オメガ3脂肪酸)が、透析患者さんの心臓病を減らした」という研究が報告されました。
今回はこの論文の内容をわかりやすくご紹介します。
魚油(オメガ3脂肪酸)って何者?
オメガ3脂肪酸とは?
オメガ3脂肪酸は、医学的には「必須脂肪酸」と呼ばれます。
これはどういう意味かというと、
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人間の体では 作ることができない
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食事から摂るしかない
という脂肪酸です。
つまり「食べないと、体に入ってこない油」
それがオメガ3脂肪酸です。
中でも魚油に多く含まれる脂肪酸として代表的なものが
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EPA(エイコサペンタエン酸)
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DHA(ドコサヘキサエン酸)
です。
これらは、
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血液を固まりにくくする
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炎症を抑える
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不整脈を起こしにくくする
などの働きがあり、一般の人でも「心臓に良い油」として知られています。
透析患者さんではどうなの?
じつは透析患者さんは、
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血液中のEPA・DHAの量が少ない
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透析中の急激な水分・電解質変動で心臓に負担がかかりやすい
という特徴があります。
そのため、
「透析患者さんこそ、オメガ3脂肪酸の恩恵を受けるのでは?」という仮説は以前からあるにはありました。
しかし、これまでの研究は小規模で、はっきりした結論が出ていなかったようです。
そのような中で今回の研究結果が発表されました。
どんな研究?
研究デザイン
この研究は、PISCES試験(大規模・無作為・二重盲検・プラセボ対照試験)という信頼性の高い方法で行われました。
対象患者さん
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カナダ・オーストラリアの透析患者さん
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合計1,228人
グループ分け
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魚油グループ
EPA 1.6g + DHA 0.8g(合計4g/日) -
プラセボグループ
見た目が同じコーン油
※患者さんも医師も、どちらを飲んでいるか分からない状態です。
観察期間
平均3.5年間
何を比べた?
以下のような重い心血管イベントがどれくらい起こったかを比べました。
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心臓突然死
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心筋梗塞
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脳卒中
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血管障害による下肢切断
メインの結果:心血管イベントははっきり減った
魚油を飲んでいたグループでは、重い心血管イベントが約43%も少なかったのです(グラフA)。
(ハザード比:0.57)
グラフA
副次的な結果1:初めての発作や死亡も減った
心臓病は一度起こると、その後も、心機能が落ちたりして様々なリスクを抱えることになります。
しかし魚油グループでは、「初めての心血管イベント or 死亡」も約23%少なくなっていました(グラフB)。
グラフB
(ハザード比:0.73)
副次的な結果2:心筋梗塞・脳卒中・足切断…すべて減少
その他、さまざなな「心血管疾患」のリスクも魚油グループでは下がっていたようです。
| イベント | リスクの変化 |
|---|---|
| 心臓死 | 約45%減 |
| 心筋梗塞 | 約44%減 |
| 脳卒中 | 約63%減 |
| 下肢切断 | 約43%減 |
ここでのポイントは「特定の病気だけでなく、心血管疾患において全体的に減っている」という点です。
魚油を内服する安全性は?
魚油は血液をサラサラにする効果があるため、たくさん内服すると出血するリスクが増えると言われています。
今回の研究結果では…
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重い出血は、魚油グループのほうがむしろ少なめ
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その他の副作用も、両群で大きな差はなかった
とのことでした。
なぜ効果があったの?
今回の論文では、以下のような理由が述べられています。
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透析患者さんはもともとEPA・DHAが不足している
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透析中の不整脈・心筋虚血を抑える効果が出やすい
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炎症・血栓・血管障害が同時に改善した可能性
まとめ
今回の研究結果をまとめてみると…
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魚油(EPA・DHA)は
透析患者さんの心血管イベントを大きく減らした -
約3.5年の観察で、効果ははっきり
-
出血などの重大な副作用は増えなかった
ただし、注意点もあります。
この研究はカナダ・オーストラリアの透析患者さんを対象としたもので、日本人にそのまま当てはめてよいか、検討する必要性があるわけです。
日本人はもともと魚を多く食べること、脳卒中や出血の背景が異なること、医療環境が違うことなどなど…
また、1日内服量も日本の基準の3-4倍近く(!?)と大量なので、より効果が高く出た可能性があります。
いずれにしろ、透析患者さんでは日本人でもEPA・DHAが不足しやすく、心血管病が大きなリスクである点は共通しています。
今後、日本人透析患者さんを対象とした研究が待たれますね。
