第57回:帯状疱疹ワクチンで認知症を予防?
みなさんは「帯状疱疹(たいじょうほうしん)」をご存じですか?
体の中に潜んでいる”水ぼうそうのウイルス”が、免疫力が落ちたときなどに再び活発になって起こる病気で、強い痛みを伴う皮膚の発疹として知られています。
この帯状疱疹を予防するためのワクチンは、今年度(2025年度)から、65歳になる方を対象に定期接種になりました。
そしてこのワクチン、帯状疱疹の予防だけでなく、「認知症の発症を減らす可能性がある」という研究結果が著名なネイチャー誌から発表されました。
ちなみに、神経に潜む帯状疱疹の原因である「ヘルペスウイルス」が、認知症のリスクを高める可能性は、実は今までも報告されてきました。
今回は、イギリスのウェールズで導入された帯状疱疹ワクチンの接種制度を利用して「ワクチンが認知症に影響するか」を調べた研究についてわかりやすく解説します。
研究の方法
ウェールズでは2013年から、誕生日が「1933年9月2日以降」の人は帯状疱疹ワクチンを受けられる制度が始まりました。
しかし、その1日でも前に生まれた人はワクチン接種対象外。
つまり「たった1日違い」で接種できるかどうかが分かれたとのことです。
今回の研究は、このような制度的な違い(接種対象者 vs 接種非対象者)を利用して、約28万人以上の高齢者の電子カルテを分析しました。
結果
1. ワクチン接種率
対象外の人では接種率はほぼ0%でしたが、対象となった人では約47%が接種しました。
2. 帯状疱疹の発症
図1:ワクチン接種と帯状疱疹発症率の差を示すグラフ
まず確認しなくてはならないことは、ワクチン接種で「帯状疱疹」が減ったかどうかです。
ワクチン接種によって、帯状疱疹の発症率は約19%減少したようです(図1)。
3. 認知症の新規診断
そして、今回の本題である「認知症の発症」への影響です。
図2:ワクチン接種の有無による認知症発症率の比較グラフ
ワクチン接種を受けた人では、7年間の追跡で認知症の新規診断が約20%減少していました(図2)。
4. 男女差
男女ではどうでしょう?
効果は特に「女性」で強くみられました。
図3:男女別にみた認知症発症抑制効果
男性でも多少の減少傾向はありましたが、女性の方が圧倒的に大きな効果を得ていたようです(図3)。
5. 他の病気への影響は?
心臓病やがんなど他の病気については、ワクチンによる影響は見られませんでした。
つまり、この効果は特に「帯状疱疹」と「認知症」の予防に限られていたとのことです。
なぜ認知症予防になるの?
今回の論文では、効果の理由として以下の可能性が挙げられています。
帯状疱疹ウイルスの再活性を抑えることで、脳へのダメージを減らす。
ワクチンによる免疫の刺激が「炎症」を抑え、神経の健康状態を保つ。
特に女性の免疫反応の強さが影響している可能性。
これらはまだ「仮説」レベルのはなしですが、「ウイルスと認知症の関係」の新たな証拠になる可能性があるようです。
まとめ
・ 帯状疱疹ワクチンは、帯状疱疹だけでなく認知症の発症リスクも約20%減らす可能性がある。
・ 効果は特に女性で強く見られた。
・ 他の病気には大きな影響はなく、このワクチン特有の効果と考えられる。
「認知症を完全に防げる」わけではありませんが、
認知症治療薬と比較しても安くて、安全性が高いワクチンが一石二鳥の「予防策」として期待できるなら、とてもうれしいことですね。
今後さらに長期的なデータで検証が進んでいくことが期待されます。
※ 当院でも帯状疱疹ワクチン接種を行っています。 ⇒ 詳しくはこちら
