第36回:植物代替肉は腎臓病の救世主になるのか?② ~”リン”ってなに?~
前回は、現在植物代替肉が注目されている背景と、それが腎臓病とどう関わりがあるのかについて、サラッとご紹介しました。
今回は、前回ご紹介した”リン”について、もう少し詳しく見ていきます。
リンってなに?それ、必要?
透析患者さんの多くが聞いたことある(聞き飽きた)”リン”という栄養成分、これに何の意味があるかご存じでしょうか?
(耳にタコができるほど)リンを減らすよう言われている透析患者さんにとっては、”悪いもの”でしかないかもしれません。
しかし、リンは生命に必須な6大元素(水素、炭素、窒素、酸素、硫黄、リン)の1つに数えられているほど大切なものなのです。
私たち陸上生物は、大昔は海の生き物であったことは多くの方がご存じかと思います。
海の中は浮力があるので、体をしっかり支える必要は少なく、骨が弱くても何とか生活できました。
しかし、進化の過程で陸上に上がるとき、重力という荷重に耐えうる骨格がなければ、体を支えられなくなりました。
そこで、私たち陸上生物は、リンを含んだリン酸カルシウムという結晶を使って強い骨格を作ったのです。
つまり、リンは「骨を強くするために必要不可欠な栄養素」なのです。
腎臓病の人は、なぜリンが体に蓄積されるの?
私たちは、その重要な栄養素であるリンを主に食べ物から体に取り入れています。
しかし、腎臓が悪いと、体に入ったリンが必要以上に蓄積されてしまうのです。
では、なぜ腎臓が悪いと、リンが蓄積するのでしょうか?
ここでは、リンが体にどのように入って、出ていくかを図を使ってご説明します。
骨を強くするために必要不可欠なリンは、主に食事から小腸を介して吸収され(①)、血液中に入ります(②)。
血液中に入ったリンは、腎臓を通じて(③)尿として排泄されます(④)。
また、骨では絶えず「血液中のリンが新しい骨に動員され(⑤)、古くなった骨から同量のリンが血液中に吸収される(⑥)」という循環が行われています。
進行した腎臓病患者さん(透析患者さんを含む)の場合、腎臓機能の低下によって図の③、④がうまく機能しないことから、リンが体の外に排泄されにくく、必要以上に体内に蓄積してしまうのです。
蓄積したリンはどうして悪いの?
このような機序で必要以上に蓄積したリンは、今度は逆に体に悪い影響を及ぼすことになります。
その代表例が、”血管石灰化”と呼ばれるものです。
文字通り「血管が石灰化する」わけですが、それによって、心筋梗塞や狭心症などの心血管疾患や、脳梗塞や脳出血などの脳血管疾患を起こしやすくなるのです。
また、(詳細なメカニズムは省きますが)細胞死が誘導されることで老化が加速するともいわれています。
そのため、透析患者さんの場合には、血液中のリン濃度を3.5-6.0㎎/dlの範囲内に収めることが目標とされています(検査結果をお持ちの方は、自分の結果を確認してみましょう)。
しかし、先ほど述べたように、リンは食事から吸収されて新たに体内に入ってくるため、血液中のリン濃度は食べたものと量に大きく依存しているのです。
そこで、血液中のリン濃度を上げないようにするためには、リンがたくさん含まれる食べ物を控えることが重要と言われているのです。
リンのお薬(リン吸着薬)とは?
しかし、食事制限だけで血液中のリン濃度がうまく抑えられないと、「リンのお薬(=”リン吸着薬”)」という薬が登場することになります。
この”リン吸着薬”を大量に処方されて内服している透析患者さんも、少なからずおられると思います。
”リン吸着薬”とは、名前通り、リンを吸着する薬です。
つまり、食事中に含まれるリンを吸着して、便と一緒に排泄することで、小腸からの吸収(図の①)を抑える作用があります。
小腸から吸収されにくくなれば、体に入るリンの量も減るので、血液中のリン濃度も低くなるということです。
ただ、飲みにくかったり、便秘になったり、逆に下痢になったり、気持ち悪くなったりと、透析患者さんにとっては全くといってよいほど評判のよくない薬です。
そういった意味でも、無理なくリンの少ない食事ができれば、本当はいいですよね。
では、次回は食べ物とリンの関係についてみていきたいと思います。
参考までに… 当院スタッフの”リン”に関するブログもご覧ください。