第21回:ブースター接種はこれからも続くのか? ~4回目接種に向けた議論の現状~
ここ1週間ほどで、オミクロン株感染が急拡大してきています。
第18回のコラムでもご紹介しましたが、確かにオミクロン株の感染拡大ペースはデルタ株の比ではない印象です。
そして、オミクロン株の感染予防、重症化予防にはやはりワクチン接種が重要のようです。
3回目接種が急がれておりますが、今後4回目、5回目…と続くことも想定されます。
そこで、現在世界で議論されている4回目接種に関する論点を見ていきたいと思います。
まずは、3回目接種の有効性についてのデータをご紹介します。
3回目接種の効果はどれくらい維持できる?
イギリス健康安全保障局のデータによると、2回接種のワクチンの”効果※1”は、10週間後には約65%も低下してしまうことが示されています。
※1 ここでいう”効果”とは、「何らかの症状を認めるほどの感染を予防できるかどうか」であって、「全ての感染予防」ではないことに注意が必要です
オミクロン株を対象としたイギリス健康安全保障局の別のデータによると、3回目接種によって2週間以内に”効果”が88%に上昇するそうです。
しかし、3回目接種を行っても、その”効果”は数週間後には下がってしまうそうです。
ファイザー製ワクチンを2回接種した人を対象にしたワクチン”効果”の経過を見たグラフ(図1)によると、
① 3回目にファイザー製ワクチンを接種した場合には、3回目接種後1週間はオミクロン株に対して約70%の”効果”がありますが、10週間後には約45%に低下ています。
② 一方、3回目にモデルナ製ワクチンを接種した場合には、9週間後も約75%の”効果”を維持してました※2。
※2 この結果だけでは、モデルナ製のワクチンが持続効果に優れているのか、それとも「ファイザー製を2回接種した後の3回目モデルナ製接種する」混合接種が持続効果に有効なのかは、分かりません
そして、(皆さんもご存じかもしれませんが)ファイザー製ワクチンを使用しているイスラエルでは、既に60歳以上の人、医療従事者、免疫不全の人に対して4回目の接種が始まっています。
4回目接種を海外の専門家はどう考えているのか?
ここで、「今後ワクチン接種をいつまで続けるのか?」、「4回目・5回目と続くのか?」と疑問に思う方も少なくないと思います。
実はこの疑問、海外の専門家からも同様に出ているようです。
ちなみに、イスラエルの首相が1月3日、ファイザーのワクチンを4回目接種した154人の病院職員を対象とした未発表の小規模な研究から引用して、「4回目接種の1週間後に抗体濃度が5倍に増加した」と発表しました。
しかし多くの専門家は、「このデータだけでは、4回目接種を推奨する理由には至らない」と考えているようです。
ニューヨークタイムズ紙や、British Medical Journal誌に載っていた専門家意見をいくつか抜粋すると、
「3回目接種は一時的に感染拡大を抑えることができるが、効果が一過性であり、持続可能な長期的戦略が必要だ」
「そもそも4回目接種の長期的有効性のデータが揃っていない」
「現在、出回っているワクチンではなく変異株に合わせたワクチンを開発すべきである」
「重症化を防ぐ細胞性免疫は3回の接種で十分獲得されており、重症化を防ぐことを目的とするなら、これ以上の投与はは必要ない」
「感染予防を目的するなら吸入や鼻吸引ワクチンと併用すべきである」
などがあり、4回目接種には慎重な意見が多いようです。
ワクチンを繰り返し打つことでの体への影響は?
ワクチンを繰り返し打つことでの、体へのマイナスの影響も一部ではうわさされているようです。
よく言われる理由として、「体内の免疫系が繰り返しの刺激によって使い果たされ、ワクチンへの反応を停止する」(アネルギーと呼ばれているそうです)という可能性がありますが、これについては、ほとんどの免疫学者が否定しています。
一方で、「免疫系の応答が、当初の接種でウイルス初期の株(アルファ株やベータ株)に合わせて反応しており、これからの変異株に対する応答が弱い」という可能性は、免疫学者もある程度支持しているそうです。
そこで、ファイザー社やモデルナ社は、変異株に合わせたワクチンを開発しているとのことです。
人工透析・腎臓病患者さんが4回目接種する可能性は?
これについても第16回のコラムで触れたことがあります。
現在も、「中等~重度の免疫不全状態の人」に対して4回目接種することに、専門家内でもある程度意見の一致があるようです。
これは、免疫不全の患者さんは抗体が産生されにくく、さらに重症化しやすいためです。
つまり追加接種の目的は、「感染予防」というよりも、「ワクチン効果を適正レベルまで上げること」、「重症化予防」といえるでしょう。
ちなみに、CDCのガイドラインでは、透析患者さんや腎臓病患者さんは、「中等~重度の免疫不全状態の人」の定義には、含まれておりません。
しかし、イギリスで行われている免疫不全患者を対象とした研究には、透析患者さんや腎臓病患者さんも含まれており、今後4回目接種の対象となる可能性が高いと思われます。
まとめ
ここまで見てきたように、今後のワクチン戦略について、専門家・政府も意見が分かれているのが現状です。
3回目接種の可否を決める際も、同じような議論(第11回コラムをご参照ください)がされていましたが、今回の論点ををまとめると以下のようです。
・3回目接種は、オミクロン株の感染拡大に対する一時しのぎになるが、同じことを繰り返すのが正しいのか?
・重症化予防を目的とするなら、これ以上同じワクチン接種は必要ないのではないか?
・感染予防を目的とするなら、変異株の流行に合わせて繰り返し接種することも有効かもしれない。しかし、これが持続可能な方法と言えるのか?
・4回目接種の可否を決めるまでの間に、変異株に合わせたワクチンや、全株対応ワクチン、鼻吸引ワクチンなど、新しいワクチンの開発はできないのか?
まだまだ、4回目以降の接種については、議論が必要のようです。
オミクロン株の感染拡大を早急に抑えるためには、現時点では3回目接種を行うことしか手段はありません。
一方、ヨーロッパではコロナ感染を”パンデミック※3”から、インフルエンザと同様の”エンデミック※4”に引き下げることが検討されています。
※3 パンデミック:感染症の世界的な流行のこと
※4 エンデミック:流行が特定の地域で普段から繰り返されること
今後、コロナ感染に対する考え方が変わることで、ワクチン接種の目的を見直す時期が来るかもしれませんね。