第38回:植物代替肉は腎臓病の救世主になるのか?④ ~植物由来の食材は健康によい?~
これまで3回にわたって、「植物由来の代替肉が注目されている背景」について、そして「リンとはなにか」、更に「植物由来たんぱく質と動物由来のたんぱく質の違い」についてご紹介しました。
これまでの内容をざっくりまとめると、「植物由来の代替肉によって、慢性腎臓病(人工透析中も含む)患者さんはリンの数値が良くなるのでは?」ということです。
残念ながら現時点では、この仮説を検証した論文はまだ存在しなようです。
しかし、ベジタリアンとの比較では、「リンの数値が良くなる」という報告があります。
この研究では、慢性腎臓病の方の中でも、”肉・乳製品を中心に食べている人”と、”ベジタリアン”とで比べています。
両者とも同等量のたんぱく質とリンの食事を1週間してもらったところ、血液中のリン濃度はベジタリアンの方が明らかに低かったということです(グラフ1)。
グラフ1:CJASN February 2011, 6 (2) 257-264より引用
このように、リンのことだけに焦点を当てれば、植物由来の食材のほうがたしかによさそうです。
しかし、リンのことだけで”健康によい”とするのも、ちょっと短絡的ですね。
そこで、その他の植物由来の食材について腎臓病関連を中心にメリットとデメリットを、ご紹介します。
植物由来を基本にした食生活は体によいのか?
植物由来の食生活と腎臓病についての研究はいくつかあります。
2020年にネイチャー誌に掲載された論文によると、植物由来の食材を基本とした食事は、
① 動物由来に比べて血液中のリン値が低めになること
② 体が酸性に傾く(代謝性アシドーシスといいます)のを防ぐこと
③ 抗炎症作用がある
などによって、慢性腎臓病の進行を遅らせる可能性があると述べられています。
また、
また、米国腎臓学会関連誌の報告では、赤身肉1食分を大豆などの植物性タンパクに変えることで末期腎不全(透析や移植が必要な腎不全)になるリスクが50%も低下したとのことです(グラフ2)。
(ちなみに、赤身肉1食分を鶏肉(家禽類)に変えると、末期腎不全のリスクが60%以上も低下したとのことです)
グラフ2:JASN January 2017, 28 (1) 304-312より引用
その他、植物由来食材ベースの食事が慢性腎臓病患者における合併症や死亡率を下げる可能性を報告したものもあります。
一方、デメリットはなんでしょう?
まず、腎臓病において挙げられるのは、カリウム摂取過多に伴う高カリウム血症です。
野菜や果物には多くのカリウムが含まれています※が、腎臓病の患者さん(特に末期腎不全)の場合、カリウムを尿から排泄する能力が低下しているため、体にカリウムが溜まりやすくなってしまいます。
※最近は植物由来のカリウムは、(特に軽い腎臓病の患者さんにおいて)高カリウム血症の原因にならないのでは?」という報告も多数見られる様になっており、一定の見解が得られていません。
血液中のカリウム濃度がいき値を超えると、”手足のしびれ”や”脱力”、そして”不整脈”が発生し、”心停止”まで至る場合もあるので、非常に危険です。
しかし、肉類にもカリウムは多く含まれているため、結局は「肉を食べていても、カリウムへの注意が必要なことは変わらない」とも言えます。
その他、(特に完全な菜食主義(ビーガン)の食生活では)カルシウムやビタミンDを摂取する量が低くなり、骨粗鬆症のリスクが高まる傾向にあるといわれています。
また、ビタミンB12や鉄、亜鉛が欠乏気味になることから、貧血や様々な症状をきたしやすいという報告もあります。
ですので、「行き過ぎたベジタリアンは危険」といえます。
しかし、まとめみれば「適量の植物由来の食材は健康によい」ともいえるようです。
では、植物代替肉は、いわゆる”植物由来の食材”と同様に考えてよいのでしょうか?
植物由来の代替肉とはどういうもの?
日本ではまだなじみが少ない植物由来の代替肉ですが、欧米では健康×低炭素がキーワードとなって、意識の高い層を中心に広く支持されているそうです。
これらの主な成分は、大豆やえんどう豆なので、昔からある”豆腐ハンバーグ”に近いものかもしれません。
日本でも、スーパーのお肉コーナーの片隅や、冷凍食品コーナーの一部に様々な食品メーカーの商品を見るようなってきました。
中でも、米国で注目を浴びる植物由来の代替肉メーカーとして、ビヨンドミートとインポッシブルフーズがあります。
最近まで日本では食べることはできませんでしたが、
2022年11月に当院の近く(つくば市)のスーパーでもビヨンドミートが買えるようになりました。
「”本物の牛肉”の味にかなり近い」という”うわさ”は以前より聞いており、興味津々の私自身も早速試してみました。
その感想は…??(次回書きます)
次回最終回は、植物代替肉の可能性をその成分から見ていきたいと思います。