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第31回:BA.5とはいったい何者? ~なぜワクチンの効果が低いのか~

[2022.07.18]

7月上旬から、全国でコロナ感染患者数が再度急増しています。

 

当院も発熱外来を行っておりますが、7月初旬までと比べると、発熱外来への問い合わせ件数、そしてコロナ陽性者数が急増しており、感染拡大を強く感じています。

 

ここ最近、メディア等ではオミクロンの変異株BA.5が注目されており、「日本も近いうちにBA.5に置き換わる」といわれています。

 

では、話題のこのBA.5、一体どういう特徴があるのでしょうか。

 

これまでのオミクロンとBA.5のちがいとは?

BA.5は、オミクロン株の変異株であることは聞いたことがあるのではないでしょうか。

 

一応、オミクロン株の一種ではあるのですが、これまで主流だったオミクロン株とは少々異なるようです。

 

2022年1~2月頃にかけて急拡大した第6波は、(オミクロン株が主役でしたが)中でも初期はBA.1、その後BA.2が主流でした。

 

図1:Nature Reviews Microbiology volume 20, pages187–188 (2022)より引用・一部改編

ちなみに図1を見て頂くとわかる通り、BA.1がオミクロンの原種的存在で、BA.2はBA.1から変異したものです。

 

さらに図1を見て頂くと、BA.4とBA.5は、BA.2から枝別れしています。

 

つまり「BA.5は、オミクロンの原種的なBA.1の変異株であるBA.2が更に変異したもの」であり、”遺伝的距離”が原種からだんだんと遠くなってしまったものなのだそうです。

ワクチンの効果がBA.5では低い理由

では、なぜBA.5はワクチンの効果が低いのでしょうか。

 

この理由を理解するには、ワクチン開発時点で主流だったコロナ株と、その後の変異株の流れ、そして先ほどの遺伝子図を見比べると何となくわかってきます(図2)。

 

図2:Nature Reviews Microbiology volume 20, pages187–188 (2022)より引用・一部改編

 

 

現在、世界中で広く使われているmRNAワクチン(ファイザーやモデルナ)は、もともとベータ株やデルタ株をメインターゲットに作られたワクチンでした。

 

そこに昨年末からオミクロン株(BA.1)が、世界中で流行り始めたのです。

 

オミクロン株(BA.1)はデルタ株やベータ株から遺伝的距離が遠いことから、当初はmRNAワクチンがどこまで効果があるのか懸念されていました。

 

しかし幸いなことに、オミクロン株(BA.1)に対してもmRNAワクチンはわりと効果がありました。

 

一方で、BA.1から変異したBA.2は、米国CDCからの発表にもあるようにmRNAワクチンが効きづらかったようです。

 

ただ、実際は(感染爆発を何とか抑え込むことができたという意味でも)mRNAワクチン効果は、ある程度保たれていたと考えてよさそうです。

 

そして、そのBA.2から更にパワーアップ(変異)したものが、今話題のBA.4とBA.5です。

 

図2を見て頂くと、コロナウイルスの遺伝子がデルタ株やベータ株の領域からオミクロン株の領域に移り、

 

さらにBA.2からBA4、BA.5へと枝分かれしていっているではありませんか(図2)。

 

mRNAワクチンのメインターゲットであった、ベータ株やデルタ株からの「遺伝的距離の遠さ」がまさにワクチンの効きづらさにつながっているのです。

海外の状況からみたワクチン効果とBA.5の感染力

BA.5は、今年2月に南アフリカでまず発見され、欧米ではポルトガルで感染急増しました、世界中で検出されています。

 

フィナンシャル・タイムズ紙より引用・一部改編

南アフリカでは、5月のレポートで「人口の98%(!?)がワクチン接種もしくはコロナ感染による免疫を保有している」といわれていたにもかかわらず、BA.5の出現とともに感染者数が急増したそうです(図の赤枠グラフ)。

 

ワクチン接種率が86%以上と、日本よりも接種率の高いポルトガルでも、5月にBA.5が優勢になった後、感染例が急増し、入院数はBA.1のオミクロンのピークレベルまで近づいたそうです(緑枠グラフ)。

 

この2か国の経過を見ている限り、ワクチン接種や以前の感染による免疫があっても、「BA.5への感染を強くは防げない可能性が高い」と言えそうです。

 

一方、英国保健安全保障庁(UKHSA)のレポートによると、BA.4もBA.5もワクチンの効果はBA.2の時と変わらなかったようですが、まだデータの蓄積が乏しいとのこで、「今後の調査を要する」とされています。

BA.5感染は重症化するのか?

米国CDCによると、BA.4やBA.5が他のオミクロン株よりも重症化しやすいという証拠はありません。

 

ただ、感染者が増えれば、入院が必要となる人の数も間違いなく増えるといわれています。

 

また、日本からの未査読の論文によると、BA.4とBA.5がハムスターの肺細胞培養でより効率的に広がることが示されており、病原性が高い可能性も指摘されています。

 

ですから、現時点では楽観視は禁物といえるでしょう。

 

4回目接種の効果と、今後の見通しは?

以前のコラムでも触れましたが、4回目接種の効果に対する見解は現在もほぼ変わっておりません。

 

つまり、

① 4回目の接種は、接種後2か月くらいまでは、感染予防効果はそれなりに上がる

 

② しかし、3回目接種した時ほどの強い効果は得られない

 

③ 重症化しやすい高齢者に4回目接種する意味はある

 

④ 4回目接種のオミクロン株に対する効果は、デルタ株に対する効果よりも弱い

 

といったことです。

 

しかし、これは主にBA.1やBA.2対して調査したもので、BA.4やBA.5に対する4回目接種の効果ははっきりしていません

 

一方、先ほどの英国保健安全保障庁のレポートによると、4回目接種の効果も、BA.2の時とそん色のない効果がありそうです。

 

しかし、これも先ほどと同様にデータ数が少なく、正確なものではありません。

 

そのような中、6月下旬にモデルナ社が、新しいオミクロン含有ブースターワクチンの(未査読)研究結果を公開しました。

 

これによると、「4回目のブースター接種としてこのワクチンを接種した場合、BA.4やBA.5に対する中和抗体が5倍以上に誘発された」そうですが、それでも現在のワクチンのBA.1に対するブースター効果と比べると、1/3程度だったとのことです。

 

また、ファイザー社も6月下旬に同様のオミクロン適合ブースターワクチンに関する研究結果を公表し、モデルナ社とほぼ同様の結果だっだようです。

 

BA.4やBA.5向けの新しいワクチン効果はそれなり期待できる一方で、このワクチンが私たちのような末端まで届くには時間がかかりそうです。

 

となると、また新たな変異株の出現との”いたちごっこ”になることも予想されます。

まとめ

長くなりましたが、今回の内容をまとめてみましょう。

 

① BA.5は、オミクロン株の原種(BA.1)の変異株(BA.2)を更に変異させたものである

 

② BA.5は、ワクチンのメインターゲットであるベータ株やデルタ株からだいぶ遺伝的距離が遠くなってしまったから、その効果も低下している

 

③ 海外では、ワクチン接種や以前の感染によって免疫を持っていたとしてもBA.5の感染が急増している

 

④ BA.5は重症化しにくいとされているが、病原性が高いというデータもあり、楽観視はできない

 

⑤ 4回目接種は短期間(2か月程度)は効果が望めるが、BA.5に対する効果は不明である

 

⑥ 変異株にターゲットを合わせた新しいワクチンが開発中だが、BA.5の感染ピークには間に合いそうもない

 

先ほど述べたように、ウイルスの変異とワクチン開発の”いたちごっこ”の様相を呈しているようにも思えます。

 

ワクチンだけでコロナ感染を抑えるのはなかなか難しく、インフルエンザ治療薬のような、簡便で効果の高い治療薬の開発が望まれるところです。

 

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